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独りにしないと言ったくせに


「お前を絶対に一人になんかしないから」

まだ私達が付き合い始めたばかりの頃、彼が言ったその言葉を私がどれだけ信じて夢見ていたか、きっと貴方は知らないのだろう。名前を呼べばいつだって来てくれて隣に居てくれた貴方にどれだけ救われていたか。私にとっては彼が初恋だった。上手い愛し方を知らなかった私の想いは彼には重かったのかもしれない。私に悪いところがあるなら直すから、だからどうかそんな悲しい顔はしないで。

「おわりにしよう」

私に優しく夢を見せた、甘く愛を囁いた、そして、私と初めてきすをしたその唇で、私の大好きだったその声で、彼は私に別れの言葉を呟いた。他に好きな人ができた、なんて、なんという裏切り行為なんだろう。私は彼しか見ていなかったというのに、彼の瞳に私は写っていなかったということなのか。愛していたよ、なんてそんな過去形の言葉聞きたくない。私は耳を押さえたい衝動を抑えながら、必死に彼の瞳を見つめる。少しでも気を緩めればこの場に踞ってしまいそうだ。

「なん、で」

「ごめん」

涙を必死に堪えながら声を絞り出した。掠れて小さなその声は、それでもちゃんと彼の耳に届いたようだった。彼は何度も繰り返し謝罪の言葉を呟いた。そんなに謝られたって困るだけだよ、さらに悲しくなるだけだから、だからどうかもうやめて。もう何も言わないで、お願いだから。
堪えきれず泣き出した私を見た彼はさらに辛そうに顔を歪めながら謝った。やめてよ、そんな顔をさせたいわけじゃないんだから、私は貴方の笑顔が好きだったんだから。

「も、いいから」

俯いた私に彼はもう一度だけ謝ると静かに私に背を向けて去っていった。彼が見えなくなってしまう、私は深く息を吐き出しながらしゃがみこんだ。彼の幸せを願うなんて、そんなこと出来るわけがなかった。そんな良い子にはなれない、だって私は彼と2人で幸せになりたかった。信じていたのに裏切るなんて、最低だよ馬鹿。これで私は独りじゃないか、彼はきっと自分が囁いた言葉を覚えてなどいないのだろうけれど。


独りにしないと言ったくせに
(うそつき)



091119







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