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酷く歪んでいた


彼が私達の高校の卒業アルバムを取り出してきたのは冬の訪れを感じさせるような寒い昼下がりだった。部屋の掃除をしていたら出てきた。そう言ってリビングに持ってきたそれをテーブルに広げて二人で眺めた。そこには懐かしい顔が並んでいた。今はもう会うこともなくなってきたので何処で何をしているのか風の噂に聞く程度だ。高校二年生の夏前に付き合い始めた私達も既に大人と呼ばれるようになっていて、お互い親から独立し同棲を始めている。こうして思うとずいぶんと長い時間を彼と過ごしているんだなと再確認し、何故か酷い倦怠感に襲われた。

アルバムを懐かしそうに、愛しいものでも見るかのように、優しい眼で見ている彼は一体何を思い出しているのだろうか。まだ若かったあの頃。漠然とした幸せな将来を想像して、自由に生きていた。自分の将来は無限に広がっていて、何だってできると思っていて、ただただ毎日が楽しかった。そんな幸せだったあの頃に何を見ているのだろう。
友達数人と元気にピースをしている私はまだ幼さを残した顔立ちをしているし、廊下ではしゃいでいる写真にはまだ幼い彼が映っている。あの頃はそれでも自分はもう大人だと思っていたのに、やはりまだ子供だったのだと、社会を分かった気になっていただけなのだと、今ならよく分かった。

「この頃のお前はほんとに可愛かったな」
なんて彼が小さな声で溢した。多分無意識に呟いてしまったそれは彼の本音なんだろうと思う。確かに私は変わったのだろう、それは彼にも言えることだが私は気にならない。もう学生ではないのだ、社会の一員になったのだし自立したのだからお互い変わってしまうのだって仕方のないことだと思う。でも彼はあの頃の、少女の私に恋しているのだ。過去の私を追いかけている。昔の自分に敗北感を感じるなんて馬鹿だ。

「なにそれ今は可愛くないってこと?」

少し拗ねたようにそう言えば、彼が先程の自分の台詞にやっと気づいたかのように動揺を灯した瞳で私を見つめた。「ばーか、今だってかわいいよ」数瞬後にそう言った彼を睨んでやれば彼は困ったように笑った後、私の頭にその大きく温かい手を優しく置いた。

「好きだよ」

その言葉を聞いた瞬間、ああ私はあの頃の少女に勝つことは絶対にできないのだろうと悟った。彼の眼は今だって少女の影を追いかけているのだ。彼は今自分がどんな表情をしているのか、たぶん気づいていないのだろう。


すきだと言った彼の顔は
酷く歪んでいた




091113
ねえ私を見てよ






あきゅろす。
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