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「私も、愛してる」


「名前、携帯鳴ってるよ」

「え?」

一緒にいた友達に指摘されて耳をすましてみれば、微かに私の着信音が聞こえていた。慌てて鞄の中に入っている携帯を探す。確認しなくても分かる。この歌は彼からの電話だ。切れてしまわないようにと焦りながらも携帯を見つけ出した私は急いで通話のボタンを押した。そのまま携帯を耳元にもっていけば、予想通りの人物の声が聞こえてきた。

「あ、もしもし名前?」

「どうしたの?」

「今から俺の家来ない?」

「え、今から?」

「そう。駄目?無理なら他を誘うから良いよ」

「え、いや、大丈夫!今から行くね」

私は目の前に座る友達のことを眺めながらそう言った。勿論暇なんかじゃない。今は友達の家に遊びに来ているのだから。でも、他を誘うという言葉に嫉妬して、思わず嘘をついてしまった。私は馬鹿な女だ。

「誰からの電話?」

小さなため息を吐きながら電話をゆっくりときった私に友達が不思議そうに問い掛けて来た。そんな友達に返答に困った私はとりあえず曖昧な笑顔を返した。なんて言えば良いんだろう

「彼氏みたいな感じ、かな?」

「何その微妙な答え。彼氏なの?違うの?」

「深く突っ込まないの!乙女の秘密だよ!」

私がそう言いながら笑ってみせると、友達はどこか呆れた表情で笑った。それでも心配そうな視線を向けてくる友達に胸が痛くなる。嘘をついてごめんなさい。彼氏だなんて嘘、それはただの私の願望。
でも、本当のことなんて言える訳が無い。セフレから、だなんて。そんなことを言ったら幻滅されてしまう。

私は本気なんだけどね。でも相手にその気がないのは痛い程分かってる。清純は私の体が目当てなのであって、私のことなんて沢山いる中の1人としか思っていないだろう。それを理解した上で私は一緒にいるのだから馬鹿な女なのだ。私は清純が好きだから、清純に求められてしまうと単純に嬉しいと思ってしまうのだ。体だけの関係でも良いから側にいたいなんて思ってしまう。

だから私の気持ちは清純には隠さなくてはいけない。私達の関係に愛は必要じゃないから。私の気持ちが清純にバレてしまえば清純は私を捨てるだろう。本気になってしまった女なんて面倒くさいだけだもの。それだけは、嫌なのだ。

「ごめんね、用事ができたから」

私のことを心配そうに伺ってきた友達に両手を合わせながら謝る。本当にごめんね、遊んでる途中なのに清純に他の女と寝て欲しくないからって理由で友達置いて清純の所に行っちゃうなんて。最低な友達だよね、馬鹿みたいだよね、ごめんね。

それから私は走って清純の家まで行った。
見慣れた道を通って清純の家の前につく。清純に走ってきたのがばれないように息を整えてから押し慣れたインターホンを押すと、清純がすぐに開けてくれた。ラフな格好をした清純と眼が合う。

「いらっしゃい名前、本当に平気だったの?」

意地悪そうに口元を吊り上げてそう聞いてくる清純に頭に友達の顔が浮かんだ。心臓が鼓動を速くする。清純は感が良いから、もしかしたら気づいているのかもしれない。私の感情に。

「平気、調度暇になったとこだったから」

「そう、じゃあ部屋行こっか」

意外にもあっさり納得してくれた清純は私を急かすように早足で自分の部屋へと足を進めた。私も慌てて玄関の扉を閉めて清純に続く。清純にとっては私の感情などどうでも良かったのかもしれない。

清純の部屋の扉を開けばベッドに腰をかけた清純が怪しく笑って私に手を差し出した。私は速くなる心臓を隠すように後ろ手に部屋の扉を閉める。ゆっくりとベッドに近寄っていき、清純の手を取れば、急に視界は回転して目の前には清純と白い天井だけが写った。

何時も通り情事中の清純は優しくて、甘ったるい空気に酔わされて目眩がする。
内股を行き来する清純の手に体が熱くなる。愛情がない行為に悲しくなりながらも体は正直だった。

いつもしっかりとセットされている清純の髪の毛が乱れている。それを見た私が清純の綺麗なオレンジ色の髪に指を絡ませれば清純と目が合った。そのまま清純の頭を撫でれば清純は気持ちよさそうに目を細めてから、私の髪の毛を優しく撫で返してくれるものだから私は嬉しくて笑みを零す。

そのまま腕を清純の背中に回せば、急に襲ってきた強い刺激に体がはねる。いつもこの瞬間、錯覚してしまう。清純に愛されているのではないかと、そんなわけが無いことくらい私が1番分かっているのに。

嗚呼、もうどうしちゃったんだろう。頭がおかしい。清純の毒が体中にまわって動けない。清純のことしか考えられない。悔しい。私は汗ばんだ清純の背中に爪をたてた。

暫くして私は清純のベットで目を覚ました。嗚呼、私はあのまま寝ちゃったんだ、なんてぼんやりと考えながら隣を見たけど、やはりと言うべきか清純はいなかった。いつものことなので気にしない。寂しくなんてない。

とりあえずお風呂に入ろう。そう思いながら起き上がって自分の服を探した。ベットの下に脱ぎ捨てられていた服達を拾っているとガチャッと小さな音を響かせて部屋の扉が開いた。その音に反応した私が扉に眼を向ければ、一足先にお風呂に入っていたらしい髪の濡れた清純が先程とは違う服で顔を出した。

「あ、起きてたんだ」

「うん、今起きた」

「はい、これね」

そう呟いた清純は私に向かってタオルを投げてきた。その白いバスタオルを反射的に受け取った私は、いきなりの清純の行動に驚きつつも清純を見つめた。

「風呂入るんでしょ」

「え、あ、うん。ありがと」

正直かなり驚いた。清純が今までにタオルなんて用意してくれたことがあっただろうか。いつもは適当に探して使ってくれと言われていたはずだ。それなのに、どんな心境の変化だろう?とにかく清純の行為を無駄にしないよう、私は洋服を持つと急いでお風呂場に向かいシャワーで汚れた体を洗い流した。

「あがったよ、ありがと」

「ああ、うん」

お風呂からあがり、清純の部屋に戻ると清純は何やら雑誌を見ているようで顔を上げようともせず適当な返事を返してくるだけだった。パラパラとページをめくる小さな音だけがこの広くも狭くもない室内に虚しく響いていた。

どうして良いか分からずその場に立ち尽くしていた私だったが、いつまでたっても私を見ようともしない清純にこの部屋に私の居場所なんてないと言われている気がして気まずくなってくる。嗚呼やっぱり用のすんだ後の私になんて興味ないのか、なんて再確認して独りで悲しくなった。

そんなの最初から分かってたことなのに。涙が出そうになるのを堪えて、もうこれ以上清純の部屋にいる意味がないので、自分の鞄を持ち素早く部屋を出ようと扉に手をかけた時だった。

「ねー名前?」

急に後ろから聞こえてきたページをめくる音とは違う清純の声に驚いて、ゆっくり後ろを振り向いて見れば其処には真っ直ぐ私を見つめる清純がいた。

今まで引き止められたことも、こんな真剣な表情で真っ直ぐ見つめられたこともなかったので心臓が緊張と不安、そして少しの期待で激しく音を立てている。

「な、に?」

「名前さ、俺のこと好きでしょ?」

清純のいきなりの言葉に一瞬息が止まった。
嗚呼、やっぱり気付かれていたんだ。でもそれをわざわざ私に言わせたいの?そんなの残酷すぎる。私の口からそれを言ってしまったら、私達の関係は終わってしまうかもしれないのに。

「いきなりどうしたの?私が清純を好きなんて、そんなわけ、ないじゃん」

私は笑ったつもりだったが何時も通り笑えているのだろうか?いや、きっと酷く歪んだ笑顔なのだろう。分かりやすい嘘をついてしまった。本当は好きなんだって、私だけを見てって、そう叫びたいのに。私のくだらないちっぽけなプライドがそれを邪魔する。突き放されるのは、怖いのだ。

「そっか、残念」

私の返答を聞いた清純が溜息をはきながらそんな言葉を零した。残念?なんで、私のこと好きでもないくせに、なんで残念なんて思うのだろうか。それじゃまるで、
やめてよ期待しちゃうから、夢を見てしまうから。単純な生き物なのだから。

「清純、今日変だよ」

「俺さ、結構前から変なんだ」

暫く俯いたまま黙っていた清純が何かを決意したかのように私を見つめた。いつも以上に真剣な表情の清純を、私もしっかり見つめ返すと、清純はゆっくり話始めた。眼を反らすことが、できない。

「なにが?」

「名前以外の奴を抱いても、気持ち良くないんだ」

「、え?」

私以外の子を抱いても気持ち良くない?何それどういう意味?

「だからさ、もうずっと名前しか抱いてない」

「うそ、嘘だよ。だって今日だって、電話で違う子誘うって」

「ああ、あれは嘘。そう言ったら名前来てくれると思って」

「そんな、だって、それじゃまるで本当に」

そこまで言って慌てて言葉を止めた。
もしこれで清純に否定されたら?そんな意味じゃないってハッキリ言われたら?立ち直れる?
部屋に重い空気が流れる。何を言って良いのか分からなくて、ただ清純を見つめることしか出来なかった。

「名前」

「な、なに?」

静寂を破ったのは清純だった。その声がやけに大きく響いたものだから、私は驚いて肩を震わせた。いったい何を言われるのだろう。つまり、清純は私に何を伝えようとしているんだろう。

早く知りたかった、もうこれ以上私の心臓がもちそうにない。こんなにも大きく脈打っている心臓が痛いのだ。

「どういう意味か分かる?」

そんなこと聞かれても困る。私に何を言わせたいのだろうか。そんなことを考えながら黙っていると、清純は溜息をひとつ零した後、立ち上がって私の元まで歩いてきた。

そして頬に触れる清純の温かい手。
それは包み込むように優しくて、

「き、よ?」

こんな状態なのに、なぜか私は冷静で、清純の整った顔がゆっくり近ずいてくる。こんな近くで清純の顔をちゃんと見るのは初めてだ、睫毛長いな、とか、そんなくだらないことばかりが頭を回っていた。
あまりに突然の展開に頭がついていかなかっただけかもしれない。

そして唇に感じる清純の温もりに慌てて眼をきつく閉じた。
それは激しいものなんかじゃなくて、小さい子供がするような、柔らかくて、一瞬な優しいキス。そして離れていった清純は笑顔だった。

「好きだ」

清純の言葉が頭を回った。
すき?清純が私を、好き?信じられなかった、決して実らない恋だと思っていたのに、清純が私を好きになってくれる日がくるなんて。私を選んでくれるなんて。
清純は凄く優しい表情で私を見ていて、そんな清純が愛しすぎて自然と涙が出てきた。涙なんて流しても、きっと清純を困らせるだけだと慌てていると、清純は私の涙を優しく手で拭き取ってくれた。

「名前、愛してる」

「き、よすみ」

「今まで、ごめんね?」

私の頬を撫でながら愛を囁いてくれた清純に、私は堪えきれず抱きついた。幸せすぎて怖い。回した腕に力を込めて、これが夢ではないと、現実なんだと確かめた。

「名前は?」

抱きついたまま何も言わない私に不安になったのか、清純が心配そうに私の顔を覗き込んで来た。そんなの、決まってるじゃないか。私は清純よりも、ずっとずっと前から


「私も、愛してる」






091014
これは千石中学生ではないね。
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