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サボタージュ


人がせっかく寝ようとしているのに机の上に置いておいた携帯が煩い着信音で邪魔をする。暫く無視してみたが鳴り止まない携帯はどうやらメールではなく電話がかかってきているようだ。今何時だと思ってんだよ、授業中だぞ、誰が電話なんてしてくんだよ。そんな悪態をつきながらも携帯の通話ボタンを押した。

「あ、もしもし?今何処にいんだよ」

「どちら様ですかー?」

「分かってんだろ!丸井だよ!」

「丸井なんて知り合いはいないんですが。間違いじゃないですか?」

「ふざけるなよ」

「……………」

「え?まじで?すんません」

「ふはっ。こいつバカだ」

「てめっ、やっぱ名前かよ!」

私の嘘に簡単に引っかかった丸井に思わず笑ってしまった。バカだこいつ。電話越しからはぶつぶつ文句を言っている丸井の声と共に先生の「こら丸井!授業中だぞ電話をやめろ!」という怒鳴り声が聞こえてきた。そりゃそうだ授業中の今、教室で堂々と電話を始めた生徒を先生が注意しないわけがない。しかし当の丸井はそんな先生は完璧に無視する事にしたようで話を続けた。

「で?何処だよ」

「えー内緒」

「分かった、じゃ当ててやる。生徒会室だろぃ?」

「……違うもん」

「お土産持ってくから鍵開けとけ」

一方的にそう言った丸井は私の返事を待つことなく電話を切った。私は深くため息を吐きながらも、ゆっくりと体を倒していたソファーから起き上がり扉の鍵を開けに向かった。丸井のことなんて無視しても良いのだが、前にそれをやって丸井に激しく文句を言われて面倒臭かった記憶があるため大人しく鍵を開けてあげることにした。ガチャッという小さな音を立てて鍵を開けた後、再びソファーに戻り体を倒した。

眠い。寝てしまいたい。もういっそ丸井のことなんて気にせず寝てしまおうか、と考えたところで思考を止めた。あんな奴に寝顔を見られるなんて嫌だ。我慢しよう。

そんなことをひたすら考えていると廊下から足音が聞こえてきた。だんだん近くなってくるその足音はこの部屋の前で止まる。そして扉が控えめな音を立てながら開けられていくのが分かった。
あー丸井来たのかな。なんてぼんやりと思いつつも起き上がる気になれなかった私はソファーに身を預けたままの状態を保っていた。

「……名前、パンツ見えてる」

「見るなばか」

いつの間にか私の寝るソファーの横まで来ていた丸井の第一声がこれだった。人のパンツを勝手に見るな変態。脳内でそう悪態をつきながらも仕方ないので、ゆっくり体を起こすことにした。ソファーに深く座り直した後伸びをすると体がポキポキと音を奏でた。大丈夫か私。

「赤とかやるなお前」

「しね丸井」

欠伸をかみ殺しながらもセクハラをしてくる丸井に視線を向けると、その後ろには何故か仁王が立っていた。意味が分からない。

「え、なに?お土産って仁王?いらないんだけど」

「ん?ああ仁王はな、一緒に行きたいって言うから連れてきた」

「お邪魔するぜよ」

おいおい丸井だけでも面倒臭いのに仁王まで来たのかよ。なんて思っていると考えが顔に出ていたのか、仁王が「まぁそう怒りなさんな」なんて言いながらプリンを3つテーブルに置いた。

「なに?」

「お土産!購買で買ってきたんだぜ!」

「買ったの俺じゃ」

「おーありがと!」

プリンといったら私の大好物である。仁王もたまには良いことするよね。いっきに機嫌の良くなった私はやはり現金な女である。
目の前に並べられたプリンの一つを手に取り蓋をぺりぺりと剥がしていく。仁王がポケットから出したプラスチックのスプーンでプリンをすくって口に入れると、とたんに口の中いっぱいに広がった甘さに自然と頬が緩んだ。テーブルを挟んで私の向かい側のソファーに腰を降ろした丸井と仁王もプリンを食べ始めていた。

「あーそういえば赤也も来るって」

「は?」

「俺が呼んどいた」

「えーありえない」

「どうせなら皆呼ぼうぜ!」

「じゃぁメールしとくぜよ」

丸井ってほんと馬鹿なの?なんで授業中に生徒会室に大勢で集まろうとしてるのだろうか。テニス部が集まったら煩くなるに決まっている、先生にバレたらどう責任をとってもらおうか。

私が苛々している横でメールを始めた2人に「もーお前ら教室帰れ!」と叫びそうになった時、この部屋の扉が控えめにノックされた。その音に敏感に反応した丸井が扉を開けに行くと廊下には赤也が立っていた。

「お邪魔しまーす」

「なんだよ赤也緊張してんのかよ?」

「だって生徒会室とか入るの始めてっすよ」

「そうなのか?ここ名前のサボリ場なんだぜ」

私を指差してくる丸井に空になったプリンのカップを投げつけてやった。なんなく受け止めるんだからムカつく。
どこか緊張した雰囲気の赤也はゆっくりと生徒会室に足を踏み入れた。いいから早く扉を閉めてくれ。

「うわっ涼しい!」

「そりゃ生徒会室だからね」

「先輩いつもこんな良い所で休んでるんすか?ずりー」

夏も近くなってきた今、今日の気温は結構高くて少し動くと汗が出てくるような状態だった。眠いからサボることにした私だが、そんな気温の中で寝れるはずもなく、幸いなことに生徒会室にはエアコンが完備されていたので使わせてもらうことにした。皆が教室で暑い中頑張って勉強していると考えると悪い気がしてしまうのだが、結局は自分が可愛かったのだからしかたない。

「いいの、私は」

「なんでっすか?」

「生徒会長様だから」

「うわー」

赤也が呆れた表情で私を見ている気がするけど気のせいだろう。私は生徒会長なのだから、その特権をフルに活用しているだけである。この生徒会室は私の部屋なの。

「職権乱用っすよ」

「うわ、赤也よくそんな難しい言葉知ってたね!偉い偉い」

「馬鹿にしないでくださいよ!」

「間違ってねーじゃん」

「丸井先輩うるさいっすよ!」

「あのね赤也、私は成績優秀で先生からも生徒からも信頼のある優等生の生徒会長様なんだから良いの。あんた達とは違うの」

「それを言われちゃ言い返せないのう」

「私は少しくらいサボっても怒られないもーん」

「ほんとだよな!いっつも怒られんのは仁王と俺だけ!ひいき反対」

「悔しかったらテストで良い点取ってみなさいよ。テニスばっかしてないで勉強しろ。」

「うっせー」

私と丸井が言い争いをしている間に赤也はこの生徒会室の探索を始めていた。べつに面白いものなんてないんだけどな。棚に並べられたファイルの1つを引き抜き中を開いてみた赤也だが10秒もしないうちに閉じて元あった場所に戻していた。多分中を見てみたのは良いが書かれていた内容が全く理解できなかったのだろう。可愛い奴だ。
その後もキョロキョロ辺りを見回していた赤也だが飽きてきたのか結局は会長用(つまり私用)の椅子に腰を降ろし、其処に落ち着いたようだった。私が我が儘を言って入れてもらった、ふかふかのお気に入りの椅子である。

「その椅子いいでしょー」

「めっちゃ座り心地良いっす」

「俺も座りたい」

「仁王はだめー」

「じゃぁ俺は?」

「丸井しね」

「え、ここ座っちゃ駄目なんすか?どきます?」

「ああ、赤也はいーよ。おとなしく座ってな」

「ひいき反対!」

「右に同じ」

「あんた達うっさい!」

「勿論俺は座っても良いよね?」

「え」

いきなり背後から聞こえてきた声に驚き振り返ると、そこには幸村と柳が立っていた。何してるの2人まで。どうやって授業ぬけてきたの?先生は何やってるんだ。というかいつ入ってきたのだろうか、全然気付かなかった。

「おお!幸村君いらっしゃい」

「真田と柳生は来ないってよ」

「私は柳が来たことがびっくり」

「たまには良いだろう」

「まぁいーけど。……書記さん麦茶ー」

「自分で入れろ」

「けちー私会長なのにー」

「名前、麦茶出して」

「あ、はい幸村様」

「会長弱っ!!」

「ちょ、ばか丸井っ!幸村だよ?魔王様だよ?怖くて逆らえるわけねーじゃん」

「名前?」

「うわ嘘です。幸村美しい!!」

「ところでジャッカル先輩はいないんすか?」

「そういえば。丸井、ジャッカルは?」

「もう少ししたら来るだろ。コンビニでアイスとお菓子買ってから来いって言ったから」

「ナイス丸井!!私アイス食べたかった!」

「だろぃ」

アイス楽しみだな。ジャッカルには少し同情するが、そういうキャラなんだから仕方ない。早く帰ってこないかな。
そんなことを考えながらも私は人数分のコップを出し(もちろんジャッカルも含む)部屋に完備された冷蔵庫から麦茶を取り出してついだ。
お盆でコップを運び、部屋の中心に置かれた机に置くと、とたんにあらゆる方向から伸びてくる手に私のくまさんのコップが取られないように早々に確保した。そのコップを持ったまま私はさっきまで赤也が座っていた私の椅子に腰を下ろした。
お茶を一口飲んだ瞬間、勢い良く開かれた扉からジャッカルが入ってきた。お菓子が大量に入っているであろうコンビニの袋を持ったジャッカルの額に輝く汗を見ながら、私はエアコンの温度を一度下げた。




090616
終わりが見つからない。




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