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短編
彼と男の境界線

空は先程とはうって変わって、暗雲が立ち込めていた。
何となく、嫌な予感はしていた。
高台に来た俺を待ち受けていたのは、じっちゃと呼ばれる大樹でもなければ、彼女でもなかった。
其処に居たのは、今はもう亡き親友。
鬼と化した、死神だった。

「か…おる」
自らの声に焦りが灯る。
もう、時間なのだろうか
しかし、そんな不安を他所に、無情にも、彼、野菊馨は笑った。

「久しぶり…じゃあないね、祐一郎…」
微笑んでいる筈なのに、彼の瞳は闇を灯していた。
綺麗な弧を描くその唇は、俺の知っている彼の物だ。
「…来てくれると思っていたよ、君も」
「…も?」

―そう、君も…。

薄い桜色の唇が言葉を紡ぐ。
艶っぽいその唇が紡ぐ名前は、昔から中のよい彼女の物だ。

「桜井春杞」

死神の馨は、春杞と会っていた…?
疑問が頭を支配する。
馨の唇の動きだけが目に写り、回りの音が消えて、馨の声しか聞こえない。
それは、とてつもない真実を告げる。

―桜井春杞は死んでいる、去年の夏に、癌で

じゃあ、俺が一ヶ月前にあったのは?
あれは桜井春杞じゃなかったのか?
あれは、何だったんだ?
分からない、分からない…。
そして、馨が言っている意味も分からない。

「祐一郎、君には罪を償って貰うよ」

分からない…何もかもが…。
ただ分かるのは、死神が笑っていることだけ


世界が、止まった気がした。





―彼女は誰?君は誰?鬼か狂気か、生か死か…

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