素晴らしき哉人生サンプル
時計を見ると、朝の十一時を指していた。普段はさほど遅く起きるタイプではないが、一週間ほどの遠方滞在の任務を昨夜終え、今日は久しぶりの休日であったため、さすがに体も疲労していたらしい。寝過ぎたか、と寝起き後の気だるい体を起こしながらサスケは掛け布団をどかす。
サスケと同様休みであったイタチは昨晩、サスケが起きたら同時に起こしてくれと言っていたため、おそらくまだ布団の中だろう。イタチはあまり朝が強くない。起こさなければいつまでも寝ていられるタイプの人間だ。
「入るぞ」
隣の寝室へと向かうと、案の定まだ寝ているイタチの姿。サスケはその隣に腰掛け、声をかける。
「おい、もう十一時だ」
反応が無いのは想像の範囲内である。熟睡しているにしろ、起きたくなくて動かないにしろ、このまま放っておいて後から文句を言われるのはごめんだ。
「昼メシの時間だから、はやく起きろ」
体を揺すると、ようやく身をたじろいだイタチが重そうに瞼を開く。瞬きを数回、目の前にいるサスケの姿を捉えたイタチはその腕を引き、体のバランスを崩したサスケのふいをついて己の横へと寝かせた。
「あ…」
見つめあう距離が、近い。
瞬間的に、サスケは困惑した表情をしながらも、顔に熱が集まっていくのを感じた。それに気付いたのかどうなのかイタチは再び目を閉じ、サスケも二度寝しよう、と眠りへ誘う。丁寧に布団をかける仕草まで見せる始末だ。イタチのぬくもりが、ふわりとサスケの体を包む。
「もう昼近いんだから今から寝る奴がいるかよ!」
その動揺を隠したいかのように一蹴したサスケは、起きあがるなりイタチへと背を向けた。こんな態度も想像の内なのか、イタチは苦笑するとようやく体を起きあがらせる。
「…そうだよな、悪かった」
「……別に」
たったこれだけのことなのに、トクトクと鳴り響く心臓の音がうるさい。サスケは胸元の服をぎゅっと掴むと、イタチに悟られないように顔を俯かせた。
イタチにとっては何気ない戯れのはずなのに、何故こうも自分だけ意識してしまうのか。この感情に名前を付けるにはあまりにも難しすぎるほど、サスケはイタチに特別な想いを抱いていた。
「せっかくの休みだし、どこか定食屋にでも行こう」
寝床から立ったイタチは、そう言うなり外着の服を出し始める。その様子を見たサスケは、わかった、と一言だけ返事をして部屋を出た。
…イタチのそばにいるだけで自分を保てなくなる、そんな想いをただ「兄弟愛」と片付けることは、違う気がしてならなかった。
◇◇◇
サスケにとって、もう兄を休ませてやりたい、そう思っていた反面、もう一度兄と生きていきたいという願望はどうしても否めなかった。
再び木の葉で生きることとなったイタチは、少しずつまわりにも順応し始め、任務等もこなしている。忍界大戦での成果、忍としての能力の高さ、そして元々のスペックから、過去に囚われることなく、イタチを認め理解を示す人間も増えてきた。
当然サスケは、今こうやってイタチの隣にいられる事にこれ以上無く満たされている。それなのに、そばにいればいるほど、イタチとどう接していいのかわからなくなっていく自分がいた。
もっとイタチに近づきたい、そう願う度に越えてはならない一線の前で踏みとどまるジレンマに嫌気がさす。
(冒頭部分より抜粋)
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