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たられば サンプル



引き寄せられるように巡り合った『彼』とのその瞬間は、一瞬にしてまるで無かったように消え去っていく。状況を整理するのに頭がとても追いつかず、いっそ夢であったと結論づけた方が納得出来たかもしれない。

ただ、視界の中で確かにイタチの姿を捉えたその時、雨で冷えたサスケの体は、腹の内側から瞬く間に熱くなるような感覚に陥った。

草を蹴り、木の枝から枝へと飛び移りながら、必死で名前を呼ぶ。
イタチ、本当にイタチなのか、死んだはずのイタチが何故ここにいる?名を呼ぶ度に、まるでパノラマのように、自分の知っているイタチの顔が思い浮かぶ。現れては消え、消えてはまた現れ。ようやく発せられたイタチの声を聞き、心臓が握りつぶされたように苦しい。


本当のことを知りたいと思っても、その現実が幻であるかもしれないと教えたのは紛れもなくイタチだ。しかし今はそのイタチの瞳が体の一部として、サスケの中にある。幾度となく憧れ、何度も何度も超えたいと願い続けた、崇高で秀でた兄の瞳が、今度は弟の瞳として、イタチ自身を見つめている。本当のことだけが、見えている。サスケの知っているイタチの全てを根拠に、自信だけはあった。


「物分かりが悪い奴だ。何度も言わせるな…今の俺にはお前にかまっている時間などない」

「そんなの…そんなの俺には関係ない!一度死んだアンタに何が出来るというんだ…っ」

「…それこそ、お前には関係ない。もう着いてくるな」

「クソが…っ」


表情ひとつ変えずに、淡々と言葉を並べるイタチに苛立ちを覚える。ギリ、とひとつ歯ぎしりをすると、半ば自暴自棄にイタチを煽りたてた。


「そうか、アンタが命を賭すまでの存在であるこの俺に追いかけられるのがそんなに気持ちいいか」

「……」

「アンタは俺がそんなこと望んでいると思うのか?自惚れるな。俺がいつまでもアンタの手のひらで面白いように転がっていると思うなよ?いくら拒まれようが、俺は着いていく。アンタの口から発せられる『現実』が『真実』であるとわかるまでな」


サスケの声色を聞き自分を挑発しているのだと悟ったイタチは、サスケに気付かれないようにそっと口尻を上げる。

サスケはいつもこうやって自分を試すかのように言葉をぶつけてくる。素直では無いくせに、感情に流されやすく、高ぶった時には直球で相手にぶつかってくる。
その態度は他人にもそうなのか、はたまた自分だけなのか。イタチは少し計り損ねたが、このように仕向けてきたのは紛れも無くイタチであり、ある意味ここまでサスケを夢中にさせるたったひとりの人間だった。


「お前はそんなに俺にかまってほしいのか?」

「かまってほしいとかそういうのじゃ…っ」

「いいだろう。そこまで言うのなら俺とお前で賭けをしないか」

「…賭け?」

「一瞬で終わる。身体的な害も与えないと約束しよう。ただし、精神的には辛いものになるかもしれないな」


着いて来い、と渡り走った枝から地面へ飛び降りる。その後に続くようにサスケも地面へ着地し、イタチの後ろ姿を怪訝そうな顔で見つめた。

一言に賭けと言っても、一体どのような賭けをするというのだろうか。そもそも、イタチの提案する賭けなど、始めからイタチ自身に勝機があるもの以外に無い気がする。その考えに至った時、この時点でサスケは、イタチに何歩分か数えられないほど先を行かれたような気分になった。

◇◇◇

深く生い茂った木々に囲まれた森の中は、場所に寄っては陽の光すら届いていないほど薄暗くなっていた。僅かばかりに差し込んだ光が、歩く度に2人の体をなぞるように照らす。

「ここでいいだろう」

立ち止まったイタチは、サスケを振り返るとじりじりと歩み寄り始めた。

「な、なんだよ…」

1歩、また1歩と近づかれる度に後ずさる足。攻撃を仕掛けられるような雰囲気は感じられなかったが、イタチが何を考えているのか、サスケには皆目見当もつかない。

「何も怖がることはないだろう」

「!」

背中に当たる、ごつごつとした太い幹の感触。気が付けばサスケは、木にもたれかかるようにしてイタチに追い詰められていた。
サスケの方がイタチよりも背が低かったために、睨みつけてもその瞳の中に怯えを含んでいるせいか、当のイタチにはまったく効果を成さなかった。

「まるで『あの時』のようだな」

逃げ場を無くしたサスケに覆いかぶさるようにして、イタチは木の幹へ片手を押し付けた。呼吸が触れそうな程の距離にサスケは、動揺を隠せずに、思わずイタチから目をそらす。

イタチの言っている『あの時』とは、とサスケは頭の中で思考を巡らせた。九尾を狩るために木の葉にいきなり現れ、一戦を交えた時、サスケはイタチの幻術により意識を朦朧とさせられた矢先、壁に押し付けられた。その時のようでもあるし、また、うちはのアジトでイタチの最期の瞬間、後ずさり逃げ場を無くし追い詰められた時にも似ている。

ただその時とはまた異なった緊張や心臓の高鳴りを、サスケ自身は少なからず感じていた。










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