[携帯モード] [URL送信]
ずっと君を見ていた サンプル




「(ハッ…ハッ…)」


ああ、今日はハズレ日だ。大学の参考書が鞄に入っていて走るには邪魔だし、しかもバイトで疲れているこの状態は決して万全なものではない。
それでも、後ろから聞えてくる、俺の足音と呼応するもう一つの足音の恐怖から逃れたくて、なんとか足を前に出し夜の路地を走り抜ける。
俺が歩けば奴も歩く。俺が走れば奴も走る。
最初はコンビニに逃げ込んだりもしていたが、ある時はそれで諦めてくれたり、またある時は俺が出てくるのをいつまでも待っていたりとムラがあるため、どうせなら少しでも奴に見られる時間を減らすため今は早々に家へと向かっている。

…当然、家の場所も疾うの昔に割られていた。


いわゆるストーカー被害に合っていた俺は、こうして週に何度か誰かに追いかけられていた。
それは決まってバイトの帰りの夜の家路で、かれこれ2か月程続いている。男の俺がまさかストーカー被害に合うなんて、と考えれば考えるだけ頭が痛くなる。


昔から、男女問わず望んでもない連中から好きだの付き合えだの言われることは多かったが、さすがにストーカー被害は初めてだった。
相手が男だろうが女だろうが関係なく返り討ちにしようと、何度か「隠れてないで出てこい」と挑発したこともあったが、奴が出てくることはなかった。
相手が凶器を持っていた場合の対処にはさすがに責任を持つことが出来ず、今まで奴と直接接触することは無く、だらだらとこの状態が続いている。


「(クソッ…マジ気色悪い…!)」


アパートが近づいてきた。俺の部屋は2階にある。果たして今日はどこまで近づいてくるんだろう。部屋まで来られたらどうする?俺はそいつを捕まえられる?

タンッタンッと階段を駆け上がる音が響く。どうやらその音はひとつだけだ。よかった、今日はこれで断念してくれたらしい。

だがホッと息を付くのはまだ早い。部屋に着いたら電気は付けずに即行カーテンを閉めよう。何故なら、少しでも部屋の中が見えるようなことがあってはならないからだ。つまりは、俺の情報を奴に渡したら負けなのである。

今一度後ろを確認し、鍵を開け滑り込むように部屋へと入る。はあはあと息を整えて、重たい鞄をベッドのほうへ放り込み、それとほぼ同時に自分もベッドの上へと沈みこんだ。


――せっかくいい物件だったのに、これ以上こんなことが続くようなら引っ越すしかないか。しかし男の俺にひっつくなんて、とんだ物好きもいるもんだ…仰向けで寝転がりため息をひとつついた俺は、頭の中でそんなことばかりを考えていた。












あきゅろす。
無料HPエムペ!