さよならの時間




体中に痛いほどの雨粒がぶつかる。耳元で響く叩くような音に目を開けて周りを見渡してみると、目の前には数刻前までは息をしていた人間だったものが転がっている。動く気力も体力もなく、地に投げ出された四肢は言うことを聞いてはくれないようだ。痛いという感覚が残っている限りわたしはまだ生きているらしい。いっそのことあのまま死んでしまったら楽だっただろうかと、やけに冷静な自分がいるのに驚いた。

周りからは殺気は疎か動物の気配すら感じない。だんだん身体から体温が奪われていく感覚がする。ふっ、と静かに自嘲の笑みを零した。必ず帰ると約束したはずなのに結果がこれとは、なんと愚かで滑稽なことか。情けなくて仕方がないが、潔く現実を受け入れよう。再び目を伏せるとあいつの声が聞こえる気がして哀しくなる。わたしが実習で怪我をして帰ってくると、叱りながらも丁寧に素早く手当てしてくれるいい奴。わたしがいなくなったらあいつはどう思うだろうか。危険な実習ばかり受けていたから、やはり死んだのかと、自業自得だと憐れむのだろうか。あるいはどうとも思わないかもしれない。

でもわたしは、あいつの記憶に少しでもいいから遺っていたい。例え忘れられたとしても、長い年月が経った後にそんな奴いたなと話の種にしてくれるだけでいい。それだけでいいから、ただ、ただ、


無かったものにだけはしないで
(お別れの時間だよ)(   、)




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ぐだぐだにもほどがある。
一応伊作夢。


090717





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