杯を交わして



今日は雲がない。久しぶりに登った屋根の上は意外と心地がよくて、そのまま座ってしまった。まあ明日は任務も何もないからいいか、と呟きながら真上の満月を見上げる。あ、何かお酒飲みたいかも。
ぐっと伸びた身体を倒そうとしたとき、ぴりりとわたしの肌が反応した。一瞬後に響く金属音。


「ほう、やるね」
「何言ってんですか。わざと殺気出したくせに」
「ばれてたかー」


残念、なんて言いながらわたしの上司は隣に腰掛けた。お互い獲物を懐に仕舞う。どうせ殺す気なんて最初からなかったくせに。この人の悪い癖だ。


「それにしてもこんな時間にどうしたんだい?」
「忍びに夜の時間は関係ないとおっしゃったのは雑渡さんですが?」
「あれー、そうだっけ?それよりも、」


あ、話逸らしやがった。何ですか、と言う前に視界に入ったそれに口が止まった。


「雑渡さんそれ…」
「うん?今町で流行ってる焼酎。飲む?」
「もちろん頂きます!」


脇に置いてあったおちょこを雑渡さんに渡して酒を注ぐ。わたしも少し入れた。すると雑渡さんがこちらにおちょこを向けている。ああ、とすぐに入れ物を鳴らした。その音は清々しい夜空によく響いた。









杯を交わして





091107



あきゅろす。
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