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次の日、図書館の手伝いが終わって外に出ると、薄くなった空から雨が落ちていた。
また、今日もか……。
溜息をついて、傘を開く。

……昨日のあの人は今日は来なかった。
まぁ、毎日来るなんて人はあまりいないだろうけど……。
それに、現実なんて所詮そんなもんだ。
会いたいと願って、偶然会える確率なんて限りなく低い。それこそ、流れ星のあの一瞬に願い事をかけることより、ずっと難しい事なのだと思い知らされる。

ぱたぱたと傘にあたる雨の音を聞きながら、足元に広がる水溜まりを避けて歩く。
小さい時は長靴を履いて、わざと水溜まりのうえを跳ねながら歩いたっけ……。
いつの間にか、避けるようになっていたな、とふと寂しさを感じて水溜まりを眺めてしまう。……流石にもう遊びはしないけど。

赤信号に足を止めて、どんどん集まってくる人の波に埋まる。周囲のざわめきが聞こえなくなるくらい、ふと、とても静かな気持ちになった。
本当は雨の日は出かけたくはないんだけど、何だか今日は久々に買い物をしてこようかな……という気持ちになって、気がついたら、帰り道とは違う道に足を運んでいた。

以前まで通っていた本屋に立ち寄って、鞄からタオルをだして雨に濡れた鞄を拭く。本が濡れるといけないから、と始めた習慣が今もまだ身についていて、客観的に冷静に凄いなと感じてしまう自分に嫌気がさして、鞄にタオルを突っ込んだ。

ぶらぶらと店内を眺めてから文庫本のコーナーではた、と足を止めた。
あれ……。
立ち止まった先にいたのは、黒い眼鏡をかけて本をぱらぱらめくっている彼だった。

こんなところで会えるなんて思っていなくて、ついバッと背を向ける。心臓がばくばくいって、適当にそこにあった本を手に取ってページをめくる。
なんで、こんなに緊張してるんだろう。
声を掛けたらいい、別にやましいことなんてないのだから堂々と……。

チラチラと彼を見ると真面目な顔をして、ページをめくる姿が目に映った。
話し掛け……れない……。

いや、話し掛ける必要なんてないじゃないかと、落ち着けずにぱらぱらと、文字の羅列にしか見えなくなった本のページをめくる。
そうして、また彼の方を見ようとした時、ぽん、と肩に手が置かれた。

「ねぇ」

飛び上がらんばかりに驚いた俺に目を丸くしてる少年と目が合う。
え……、

「うわ。何その反応……。面白いけど、その顔止めてくれないかな。誰この人っていう顔、すごく失礼」

不満げに頬を膨らませて、ポケットに手を突っ込んだそいつの顔をまじまじと見る。

「……セツ?」

ぼんやり浮かんだ名前を訊くと、にこりと笑って、

「正解。よかった、覚えてくれてて」

お前のことだから忘れてるかと思ったよ、と笑って言ったセツの顔を見て、前と変わらない切なさを含んだ空気に心が締まる。
セツは中学の時仲良くしていた友達で、名前は雪と書く。その名のとおり、雪のように繊細さやどことなく感じる切なさが好きだった。だから、なんとなくだけど、名前は覚えていたんだけど。


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あきゅろす。
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