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2.

あいつがふと、テーブルの上においた本に目を落とした。
そして、目を見開いて俺を見る。

「これ、まだ持ってたの?」

「ン、ああ……」

机の上に置いた本に目を移した。いつも鞄に入れて持ち歩いている、角も少し折れて、表紙もだいぶくたびれてきている本……。
でも、なるべく汚れないようにと気をつけていた大切な……。
こいつがくれた本。

「……大切に読んでくれてたんだ。ありがとう」

静かに言ったこいつに視線をむけた。

抱きしめたいと思う……。

なんて、な……。

ばからしい……。

「好きなんだよ……この本の感じが」

「そう、なんだ」

素直になれなかったあの頃。

何も言えない今。

今も昔も変わらないんだな、と思うと急に笑いがこみ上げてきた。

「な、に。どうしたの、」

「いや、何も変わらないな、俺達は。と思ってさ」

いや……変わったな……。前はこんなに笑い合える余裕もなかった。
俺達はずっと喧嘩ばかりだった。
さよならの瞬間でさえも喧嘩してたっけ……。

愛してる、とも、好きだ、とも言えなかったあの頃の自分……。

あの頃を振り返るとなんてガキだったんだろうと思う。

……まぁ、今でも十分ガキか。

やり直そうなんて思わない。
でも、以前の俺たちに気持ち的にも生活面でもゆとりがなかったのは事実だ。

「あのさ、」

「なに」

二人でいた時間。喧嘩はしたけれど全てがイヤな時間というわけでもなかった。

冷たい夜風に当たりながら、二人で星空を見上げていた日々。

二人で見るもの全てが輝いて見えた瞬間。
……帰りたくない、なんて言葉はきっと嘘。

「この先いつか、おまえを……」

幸せになんてきっとなれないのだと思う。
でも、ただ、ひとつ想うことは。

ずっと、言えなかった言葉をいつか、面と向かって伝えたい。
ただ、それだけだ。


……愛してる。





end.

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