言いそびれた言葉(雲雀+10)
「本当に行っちゃうの…?」
今にも泣きそうな表情でなまえは幼なじみを見上げた。
雲雀はそんななまえを眉をしかめて無言で見下ろしている。
「何か言ってよ…!最後かもしれないのに!」
言葉尻は強く、だが振り上げた手は弱々しく雲雀のシャツを掴んだだけだった。
「最後じゃない。すぐに帰るからなまえは僕の帰りを待っていればいいんだよ」
「……、待ってていいの?」
「ダメなんて誰も言ってないだろう…。むしろ待ってなよ」
そう呟くとなまえは顔をくしゃくしゃに歪めて一生懸命に笑った。
「分かった!私ずっと恭弥くんの帰りを待ってるから!」
行ってらっしゃい、と掴んでいた雲雀のシャツを離した。
待ってたのにと自分を恨んだだろうか、と雲雀は今はいない幼なじみの少女を思い出し口の端を僅かにつり上げた。しかしその眉は微かにしかめられていた。もうすぐ過去の沢田綱吉たちがここにやって来る。ここ数年で雲雀が愛した並盛は変わってしまった。悲観はしないが怒りだけが静かに彼の中に渦巻いている。
過去を変え、この現実を変えたいと言う気はない。愚かな侵略者をズタズタに咬み殺してやりたいと言う殺意と、強い人間と戦う楽しみだけが雲雀の心を支配していた。自分はこれでいい、と酒杯に口をつけて眼前を見据える。
過去が変わり今とは違う未来が生まれたら、そこでなまえは自分を笑顔で迎え、果たされなかった約束は別の未来で果たされるのだろうか。
「どちらにしろ、もう今の僕となまえには関係ないことだ」
言いそびれた言葉
(伝える相手を失ったまま)
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