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空中楼閣(赤木/神域)

ヒラヒラと袖を揺らす白い浴衣を視界に入れて、なつみが金魚みたいだとアカギは思った。


「りんご飴ありがとうございます赤木さん!すっごく可愛いです!」


それこそ頬をりんごのように赤くさせてなつみが振り返る。
アカギは目を細めてそんななつみを見つめた。


「……?赤木さん?」


いつも自分を見る時は孫を見るような目で薄く笑みを浮かべるアカギが、今は神妙な面持ちで見ていることに気付いたなつみは振り返って足を止めた。


アカギはまばらな人混みの中でなつみが少し不安げに自分を仰ぎ見る様を見て、自分が全盛期だったあの頃にかえったような錯覚に陥った。


脳裏に浮かぶのは同じ年頃の男女が違和感なく連れ立って歩いている姿。
タバコをくわえてふらふらと歩く青年の後ろをパタパタと追いかける少女。


「赤木さん?」


すぐ目の前まで来たなつみにアカギはやっと現実に戻った。


「嗚呼、すまねぇななつみ。立ったまま夢を見てたみたいだ」


クク、と苦笑を浮かべて赤木はその口元にシワを刻んだ。

「もー、赤木さんってば、もうボケ始めたんですか?早く集合場所に行かないとヒロくんが心配で暴走しちゃいますよ?」


なつみはくすりと笑って冗談を口にする。
赤木は「ボケとはひでぇな」と呟いてなつみの額にデコピンを喰らわせた。


「いた!暴力反対!」


デコピンをした時の手は確かに皮が固くなり、ある程度年齢を重ね老いを感じさせるものだった。


あの光景を見た一瞬、赤木は確かに若かりしころのアカギになっていた。


「もしオレがお前と同じ年齢だったらお前はオレに惚れてたんだろかなぁ…」


「え?赤木さん何か言いました?」


「いんや、何も…何でもないさ」


歩きながら紫煙を吐き出すとなつみが「歩きタバコはダメですよ!」と赤木の手からタバコを取り上げてしまった。


思わぬ想いを自覚したことに赤木は苦い思いがした。





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