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めぐりめぐって
誰が為の説得
 私はとりあえず、うちはオビトに軽くこの世界について話した。

 戦闘組織(警察や自衛隊のこと)は強いし集団としての力を上手く利用する有能だ、と少しばかり誇張して言った。こうする事で、うちはオビトが多少は弁えた行動をしてくれると細やかに願ったのだ。



 そして次に、彼の状況について簡単に話してもらった。特に興味はなかったが、ここで聞かないのは不自然だろうと思えたから。
 まあ本当に素っ気ない説明だったのだが、分かりやすくもあった。




「えーっと……つまり貴方は忍者で、異世界から来たということでしょうか?」

「そういうことだ。
 ──だが、意外だな。忍者は知っているのか」



 少し、否、かなり疑わしげな声に、私は泣きそうになった。



「はい、忍者は結構有名です。日本でも4、300年くらい前まではいたそうですから。
 ……ただ、超能力が使えたなんて聞いたことはないので、違う存在だとは思います」




 うちはオビトは納得したでも疑い続けるでもなく、そうか、と呟いた。がっかりした風にも見えないことにはないが、言及するのも面倒なので私は話を変えた。



「それにしても、異世界……まあ確かに、さっき私も勝手に口動いたし少なくとも超能力はある訳ですよね……」




 ある程度疑問を持ってますよアピールをする。流石に幻術を掛けられて何も言わないというのは可笑しいだろう。



 さて、演技は火事場の馬鹿力で上手くやった。今のところカンペキ……だといいなあ。

 厨房の全力なんて、忍者のこの人からしたら大したものではないのかもしれないが。



 うーん、と悩むふりをしていると彼がふらついているのに気がついた。



「あ! 立たせたままですいませんっ……どうぞ、座ってください」


 クッションを差し出し、座るように促すが彼は動かなかった。



「別に良い。貴様の気にすることではない」

「いえ、心配ですから……ここで倒られなさったら、また水汲まなくちゃいけません、し……」



 ちょっと威圧的すぎて怖い。言葉が尻すぼみになってしまった。
 でもでも座ってほしいのは事実なんだよ? 水はもう温くなってしまったから、また新しいのを入れなくちゃいけないし、何だかんだ心配だし。

 彼は鼻を鳴らし、冷たい声で言い放った。



「余計なことはするなと言っている」

「っ……そう、ですか……すいません……」



 ……ああ、本当に嫌なやつだ。もう少し人を思いやるということを知ってほしい。日本人は繊細なんだぞ。
 まあ第一印象が最悪だし(私が仮面を取ろうとしたから)、仕方がないかもしれないけど。




 でも見下ろされるのは怖いし嫌です! そんなに威圧的だと、話すことも話せないでしょうが!

 しかしそれを言うことはできず、私はただ頷くことしか出来なかった。







 …………ん?





「あーっ!?」

「五月蝿い、何なんだ」

「す、すいません」



 怖すぎだろ本当勘弁してくれ。まあ、私が騒がしくしたせいだし仕方ないか。

 それにしても機嫌ホントに悪いんだな。熱のある人間に言うべき事ではないが、八つ当たり気味な態度が鼻に付く。
 ああもうコイツ人を脅すわ苛つかせるわで腹立ちまくりですよ。


 ってそうじゃない!

 すっごい大事なことを忘れていた! なんでこんな重要なことを忘れてたんだろう!?
 自分の馬鹿さ加減に呆れてしまうけど、今は先にすることがある。



「あ、あの! あなたは自分の世界に帰ることが出来るんですかっ?」

「それが出来たら貴様に説明などしていなかっただろうな」

「ですよねー……」



 予感的中、気分は最悪だ。
 これから起こるであろうイベントに、私は泣きたくなった。


「えっと、じゃあ、あなたは住むところ無いんです、よね……」

「住むところは不要だが……」


 彼が言い淀むのも無理は無いだろう。
 うちはオビトにとってこの世界は未知数だ。情報が少なすぎる。しかも私が軽く誇張して話したし、少なからず警戒もしているだろう。

 何より今の彼は弱っている。敵との交戦なんぞ以ての外、強がってはいても野宿なんぞしたら危険である筈。



 要するに、だ。

 彼を、ここに、住まわせてやらなければならnくぁwせdrftgyふじこlp
 うーん、現実が受け入れられない! 苗字さんは現実逃避に関しては一流ですがここまで非現実的となるとそうもいかないのだなこれが!!


 こほん、と大きく咳払いをして気を取り直し、彼に問いかけた。



「あの、良ければうちを拠点にしませんか? 家族はいますが、何とか説明すれば済みますし」



 というか、わかってくれないと困る。
 あーた誰がS級犯罪者かつラスボス候補を野放しにできますかってんだ。



「……貴様、オレに殺されかけたのによくそんなことが言えるな」

「い、いや、そうですけど……流石にそんなこと言ってる場合でもないですし」



 彼が不審人物として警察に職質でもされたらどうなることか。
 いや、仮に見つからずに潜伏できていたとしても、手元にこんな危険物がいないと何をしでかすかわかったもんじゃないし不安だ。


 何より、こいつが私の家から出てきたなんて目撃情報が出たら、私は死ぬ覚悟がある。
 人の目は何処にでもある。特に今時の日本なんて恐ろしいこと限りない。




「でも、貴方を追い出すなんてことできませんから。警察──治安維持組織がパトロールとかしてますし……結構、危険な武器を警察は持ってますから」

「……」

「私は、まあ、揉め事とか危ない事が嫌いです。だから私ん家で静かにしててくれたら、嬉しいなーって……」




 息苦しいくらいの沈黙が訪れる。
 彼も今は損得勘定で忙しいんだろう。如何に非道な手段をとってでも、彼は自分の世界に帰らねばならない。
 なんせ月の眼計画とやらを為したくてたまらないんだから。




「…………お前の、」

「!! はい、なんですか?」




 漸く口を開いた彼は、少し試すような口調だった。



「お前の家族というのは、信用に足る者たちか?」

「……」



 すっ、と家族の顔が脳内に浮かぶ。
 あの人たちが信用出来るか……そんなのお前次第だと言いたいが、そこはぐっと堪えて。



「大丈夫だと思います。多分、私なんかよりは凄く合理的な筈です」

「……そうか」



 自分でも驚くほどにすんなりと告げることができた。
 うちはオビトも虚偽はないと感じたのか、短い返事をした後思案げに黙り込む。やはりまだどう行動すべきかを悩み倦ねているようだ。

 そして彼は少しの間を置き、答えを出した。




「では、頼む」

「っ!? わ、わかりました!」

「少しでも怪しい行動をとれば……分かっているな」

「は、はい、勿論です!」




 まさか「頼む」なんて丁寧な物言いをされるとは思わなかった。ただまあ、すぐその後に脅されたけれども。

 うん、少し予想外で驚いた。黒幕とはいえ流石にこんな場面で上から目線はしないか。



 よし、これで話は大体終わった。

 私は立ち上がって、部屋から出るために扉へと向かった。
 しかし、まだ肝心のことを話していなかったのでくるりと方向転換し、彼を見る。

 立ち上がっても彼に背は届かず、自然と見下ろされる形になった。




「あ、あの……私は苗字名前っていいます。あなたの名前は?」

「……呼び名、か」



 呼び名って、名前と違って中二臭い言い方だな。まあ、こいつの場合仕方がないのか。

 少し視線を下げてから、彼は再び私を見下ろした。



「オレの名はトビだ。姓は無い」



 誰でもない男の名前は、やっぱり誰でもなかった。






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中学生らしく書けているか心配です。



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