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めぐりめぐって
著莪の花は枯れ果てて
 早朝。まだ日も昇りきらないうちにトビは目を覚ました。


 浅い眠りから目覚めた彼は、この頃続いていた倦怠感が無いことに気がついた。
 この異世界に飛ばされた当初の体調不良は治っていたが、なかなか気だるさは拭えなかったのだ。万全の体調になるまでに約一週間かかってしまったが、何の栄養も取らずにこれならば上々といったところだろう。改めて柱間細胞の驚異的な効果を理解した。



 だが、同時にその柱間細胞をもってしても長引いた高熱と倦怠感への懐疑もあった。この異世界に来たことと何か関係があるのかもしれないが、さしものトビもこの情報不足の状況下では分からなかった。



 ともあれ、コンディションが良好になったのは喜ばしい事だ。
 果ての見えない疑問を打ち切り、彼は今手を打つべき問題について考えることにした。




 起床してから、部屋でこの世界の本を読んでいた彼は、普段なら昼頃まで閉まりきっている名前の部屋の扉が開く音を耳にした。
 ぴたりと頁を捲る指を止め、トビは眉を寄せた。




 当然のことだが、トビにしてみれば名前など歯牙にもかけない存在だ。
 あの子供が何をしていようと彼には関係のないことだし、考える時間すら惜しいと思うだろう。恐らく一昨日までの彼ならば、きっと読書を続けた筈だ。



 だがしかし。それは危険性がない人間に限ることである。



 トビは昨日から、名前に対する警戒の念を強めていた。







 名前は自称ただの一般人だ。武器の保持が認められないなんて、あの木ノ葉隠れの里がマシに思えるほど平和ボケした国に住んでいる、そんな子供。



 だが、ならば何故。何故アレは自分の歩法を見破れたのか。





 戦闘訓練も感知能力も保持していないこの世界の人間に、忍である自分の動きを気づけるわけがない。
 勘が鋭いだとか、そんな雑な理由では納得できない。彼は自分の実力に一定の信頼を置いている。簡単にはいそうですかとはいかなかった。

 昨日のトビは名前がただの人間だと納得したような口ぶりだったが、それは表向きだけだった。




名前が自分をこの世界に飛ばした張本人、とは考えづらい。それにしては隙がありすぎる。
 何より奴のメリットが見えないし、彼女はもう少しで死ぬ羽目になっていただろう。

 だが、何らかの関与はしているのではないか。




 彼には名前が人畜無害な存在だと安易には思えない。


 だが、あの女が敵となりうる人間とも考えられなかった。




 昨日の怯えぶりが嘘とは思えない。その後の激昂も子供らしい鬱憤の爆発と考えた方が自然だった。




 もしあれが全て演技だというのなら、トビは素直に感心しただろう。
 騙し陥れることこそが忍の本質だが、一流の忍だとしてもあそこまで感情を込めた演技は出来ないものだ。





 視線の動き、手の動作、瞬きの回数、喋り方の速さの変化など、全てを鑑みても嘘のない言葉だという結果になる。
 写輪眼の洞察眼を用いての分析なのだから、正しくなければ写輪眼にガタが来たとしか考えられない。

 故にこそ、名前をただの民間人と考えるのが自然である。





 しかしならば、あの女の並々ならぬ感知能力はどういうことなのだろうか。

 名前の話では、この世界にチャクラのような特別な物質はないらしい。
 たしかに、帰還用の時空間忍術の術式を考案する片手間にこの世界の書物を読んでみても、そういったものは存在しなかった。



 加えて、名前たちが在住するこの国は戦争に敗北し、軍治機能を失っている。

 一応警備組織のようなものは存在しているらしいが──強いと名前は述べていたが──本などを読む限り到底強いとは思えなかった。

 そのような組織しかないこの国に住む子供が、自分に呆気なく組み伏せられた子供が、心の底からの恐怖を覗かせた子供が──何かを企めるだろうか?





 あの女が邪魔な存在になるのなら殺すことは厭わない。
 だが、殺害が周囲の人間に知られた場合、少々厄介なことになる。まだ帰還の目処が立っていないトビは派手に動く訳にはいかない。
 同時に、無防備に放っておくという訳にもいかない。最低限の監視でもしておかなければ、安心も何もできたものではない。




 だからこそ、今朝の名前の行動は無視できるものではなかった。


 前述した通り、この一週間の名前の動きを見ると彼女が部屋を出ることは限りなく少ない。午前中は特に頻度が低くなる。




 それなのに、今日はどういうことだろうか。


 昨日の脅しでどんな行動に出るかはわからないと思っていたがまさかここまで予想外の行動に出るとは、さしものトビも訝しんだ。
 冷静に思考を組み立てていく。


 名前の行動を無視というのは、些か賭けじみた行為だ。あの女が何を目的に動いたのかが分からなくなってしまう。今もっとも警戒している人間の突飛な行動を黙視するなどあり得ない。



 トビは暫く思案した後、重い腰を上げて動き出した。







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主人公のトンデモな聴覚の良さの理由もそのうち書きます(*'ω'*)


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あきゅろす。
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