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めぐりめぐって
灰空はまだ続く
「私が散歩から帰って家に入ろうとしたら、突然物音がして……ここにトビさんが落ちてらっしゃいました」



 今にも雨を振りだしそうな灰色の厚い雲が、空を覆っていた。湿った空気が肌にまとわりついてくる。

 青臭い草の香りが鼻孔に侵入してきて、思わず顔を顰める。
 長年暮らした土地ではあるのでこの匂いには慣れてしまった。しかし、好むことは死ぬまでないだろう。


 まあそんな田舎アピールはどうでもいいか。やっていても虚しいし、ただ憂鬱になるだけだ。現実逃避しがちな自分の頭を戒め、改めて辺りを見回した。


 家の前のコンクリートが広がる平地に私たちは立っていた。


 ここについ昨日トビが落ちてきたとは、我が目で見たこととはいえ信じられない。

 ラピ◯タだったら女の子が落ちてくるのに、現実ではコスプレ野郎が落ちてくるとかどんな悪夢だこれ。夢だ、夢に違いない。夢だ、醒めろ醒めろ。ってこれじゃ千と◯尋じゃねーか。


 一人ツッコミをしてみても尚更虚しくなるばかり。
 だって、私の目の前で腕を組み、黙考している男を見れば現実を認めざるを得なかったのだ。




 夢じゃ、ないんだよなあ……

 トビにバレないよう静かに嘆息する。これくらいしても許されるだろう。


 奴が倒れていたコンクリートの辺りには、血がついていたり大きく破壊されていたりと物騒な状態ではなく、ただまっ平らに広がってるだけだった。


 つまり、いつも通り。だからこそ訝しくなるのです。



 尤も、私から見ればの話だが。忍者であり、うちはであるトビの目から見れば、何か違うのかもしれない。
 それはもう熱心に(私にはトビがそう見えた)何の変哲もないコンクリートを見つめてるんだから。



 二、三分何の動きもとらなかったトビが、突然しゃがんだ。

 そこまで広くもないコンクリートに、奴は組んでいた腕の片方を地につけ俯いてしまった。




 ……え? 何コレ?


 私どうすりゃ良いの? チャクラとか無いから何もできないけど、何か手伝えることないワケ? 無いですよねえ。

 手持ち無沙汰を慰めようにも特に何が出来るわけでもないので、ただ彼の作業が終わるのを待ち続ける。


 何だか居心地が悪くなってしまった。

 だって私だけ立ってるってなんかおかしくない? なんというか、申し訳なさが……って私何考えているんだ。まるで意味がわからんぞ。


 声をかける……のは、うん、止めとこう。迷惑がられるのは目に見えている。何らかの目的があってこんな事をしているのだろうし、邪魔するのは良くないよね。



 やっぱり、とりあえず黙って待つしかないか。
 少々の気まずさを抱いて、私はひたすら待つことにした。コイツに話しかけるくらいなら、沈黙し付ける方がマシだったから。

 まあ、いうほど待ってもないけれど。


 一分も経たないうちにトビは立ち上がった。
前振りが一切無い自然な動作に、私も慌てて猫背がちな背筋を伸ばす。



「ど、どうでしたか?」

「……駄目だ、手がかりはあるがまだ帰られそうにはない」

「そうですか……」



 肩を落としかけ、一応コイツがいる手前慌てて堪えた。幾ら何でも本人の前でこういう事をするのはマナー違反だろう。


 でも、私としても残念な気持ちには変わりない。コイツに長居されても困るし、さっさと帰ってほしいんだよね。首の怪我を思い出して心臓がバクバクするし。

 ただ、よく見る二次創作はそんなすぐに帰る手立ては見つからないし、どうせコイツもそうなんだろうなと思っていたから、そこまでのショックは無かった。



 それでもやはり、奴の背からは微かな阻喪のようなものが感じられた。
 いくら化け物じみた能力を持つこの男だって人間なんだ。当然といえば当然だろう。人並みに落ち込むくらいの心はある……あるよね? あるのか?

 ちょっと首を捻りたくなるくらいには怪しいところだが、今はあると仮定しましょう。



 慰めの言葉でもかけるか? いや、コイツにそんなことをしても厭わしく思われるだけだろう。というかコイツにそんなことをしたいとも思えない。

 それに、放っておいても大丈夫な気がする。コイツからは確かに阻喪を感じたけれど、諦念は無かった。


 熱意も根性も存在していないような奴だが、諦めるなんてことはしない筈。
 そんなことで絶望するくらいなら、第四次忍界大戦なんてやっていなかっただろうし、当たり前ですかね。

 知ったような口を聞いていることに、自分の事ながら呆れてしまう。



 そんな私のことなんか露知らず、トビはいつものフラットな声で私に指図する。



「そろそろ戻るぞ。もうここにいても意味はない」

「わ、分かりました」



 羽織っていたコートの裾を翻し、家へとずかずか歩いていくトビ。

 随分と我が物顔だな、この野郎。内心で激しく毒づく。
 お面をしていても我が物顔と言えることに、何も可笑しくもないのに笑えてきた。つまらない女だという自覚はあるんだけど、どうやらこういう癖は直せないらしい。



 ……さて、しかしこれからどうなるものか。
 慌てて奴の背を追いながら考える。私、というよりこの世界の人間には何も手伝えることはないが、早く元の世界に戻って頂きたい。
 面倒くさいことになったなあ、と小さく溜め息を吐いた。






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千と千尋の神隠しって略し方何なんでしょうね……せんちひっていうのはどこかで見たんですけど、如何せんしっくりこない。

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