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めぐりめぐって
キュリオシティ・キルド・ザ・キャット
 冷蔵庫にあった、ラッピングされたご飯と有り合わせのものでお昼は凌いだ。
 基本家にあるもので済ませるから、常備されているラーメンや素麺、スパゲッティなどの高カロリーな食事になりがちなのが悩みの種。



 父さんはもう仕事に行っちゃってて、今家にいるのは私とトビの二人だけらしい。

 トビが何をしているのかは知らないが、部屋に引きこもってる様子だ。外に出ようとするようでもないし、この分なら心配はいらないだろう。




 午前中は適当に勉強した。
 前に半日だけ投稿した際に渡された課題プリントが溜まっていたので少しだけでも終わらせておきたく、渡された量の半分程度は完了。このペースならば明後日までには終わらせられそうだ。


 ……さて、では少し休憩するか。私は一年中休みみたいなものだが。

 久方ぶりに漫画じゃなく、評論でも読書でもしたい気分だ。



 とはいっても、家にある粗方の本は読み終えている。引きこもり生活とは存外暇なので。


 どうしようかと迷う脳に浮かんできた名案は、パソコンでうちはオビトについて調べる、なんてことだった。
 やはり忌まわしい相手だが、気になるものは気になる。彼が何故食物を必要としないのか、何故闇堕ちしたのか等々。知りたいことは事欠かない。


 リビングに下りて、いざ! とテンションを上げたのに、パソコンは置かれていなかった。
 うちのパソコンは共用だから、母さん辺りが職場に持って行ってしまったのだろう。少しばかり残念だ。



「ま、勝手に使われるよかマシか……」



 独り言を呟くと、その気持ちは確固たるものになる。
 トビがもし、パソコンに興味をもってしまい勝手に使い、何かの拍子でNARUTO関連を見つけてしまったらマズいし。確率としてはかなり低いけれど。

 そう考えたら仕方がないと思えた。やっぱりちょっとは不満だけども。



 何とか自分を納得させて、手持ち無沙汰のままリビング座椅子に座る。テレビも明かりも付いていない部屋は物寂しく、考えに耽るには最適な場だ。


 今私がすべきはうちはオビトの不思議を考えることではなく、他のことで気を紛らわすことだ。

 これ以上奴のことを考えたところで、昨日の殺気を思い出して気持ち悪くなる。トラウマになってしまったらしく、少し昨日を思い出すだけで体が震える。



 うん、時間が無駄だ! 最近読んでいない小説でも読み直そうかな!





 …………あーでも気になるなあ。なんか調べる方法ないかなあ。無いよなあ。

 わざと音を立てて本を閉じる。やはり、動き出した好奇心は治まってくれなかった。


 NARUTOの単行本は既に母さんが持って行っちゃったし(仕事帰りに売ってきてくれるらしい)、それに私の持っていた巻数までではうちはオビトのことは書かれていないだろう。


 調べられないことを悔しがっていると、突然リビングの扉が開かれた。バッと振り返り確認した途端、私の体は硬直した。



「……あ、トビ、さん……」

「……」



 無言のトビと目と目が合い、自分の声が裏返ったために冷や汗が吹き出る。こいつは気にもしないだろうが、恥をかいた私としては死にたくなる。



 当然だが、今の彼は写輪眼ではない。

 だけど、やっぱり怖いものは怖い。目をすぐに逸らした私を許して頂きたい。



「……」

「……」



 沈黙するのはやめろォ!

 ……いや、割りとマジで勘弁してください。あなたは喋っても怖いけど、無言で見つめられるのはもっと怖いです。

 ちょっとしたギャグでもいって場を和ませるか、いやいやコイツにギャグは通じんだろうなんて、かなりどうでもいいことを考える。



「おい」

「ひょえっ!? は、はい!」



 変な声が出たが、すぐに気を取り直して応える。ああもうこのクソッタレめ、普通に返事もできないのかクソ無能……!


 トビは一瞬変なものを見るように黙ってから、すぐに何事もなかったかのように話始める。

 その方がありがたいから助かる。本人の意図しない内での助け船に乗らせてもらい、私は平常心を保った。保ったんだってば。



「これから俺は、元の世界に帰る方法を探る。お前も俺がいなくなった方が良いだろう。ならば協力しろ」

「へ? はい、もちろん協力はさせて頂きたいですが……何を手伝えばいいのですか?」



 思わず首を捻ってしまうくらいには戸惑い、思ったままに尋ねる。
 自分で言うのも何だけど、私は何の戦力にもならないだろう。運動ができるできない以前に、チャクラが練れないんだし。


 ちょっとトビの口の聞き方にムカッとしたけど、まあそこはスルーする。
 トビは少し思案した後、口を開いた。



「そうだな……俺がどこに落ちていたのかを教えてくれ」

 なんだ、案外難しい質問でもないな。
 予想よりは簡単な問いだったことにほっとして、私は軽い調子で答える。


「ああ……それなら簡単です。家の前ですから今すぐ行けます……でも」


 ただ、一つ問題点を見つけてしまった。意識しないうちに表情が曇っていくのを自覚し、どうしたものかと悩んでしまう。



「どうした。何かあるのか?」



 怪訝そうにする彼に、私は仕方なくどもった理由を話した。


「いえ、その。トビさんの格好だと目立つし、万が一近所の人に見られたら、マズくって……」

「そんなことか。幻術をかければ問題ない」



 なんであんたは暴力で解決しようとするのさ。

 なんてツッコミはため息と共に飲み込んだ。そんなことを言い出したら、私は両親に幻術をかける事を肯定したし。



 だが、全く無関係の人々にまで手を出すのは頂けない。
 もっと安心安全な手段はないものか。

 でも、コイツに着替えて面取れってのも無理な話ではあるよね……替えの服だって父さんのを貸してあげてるだけだし(さらにその上に暁のコートを着ている)。
 面なんて尚更取ってくれないだろう。

 難儀なもんだ。



「わかりました。では、一緒に行きますから少しお待ち下さい」

「場所は分かった。俺一人で充分だ」

「うっ……それはそうです、が……
 もしこのままトビさんがいきなりお帰りになられたら、ある意味不安になります。
 トビさんが帰られる際に立ち会いたいですし」

「……成程。お前は俺の監視役、という訳か」



 トビの鋭く尖った容赦無い一言に、私の困り顔は引きつった。

 やっぱバレたか。幻術沙汰になったら嫌だから見ておこうと思ってたんだけど、私のセリフで分からないほど察しが悪くはないよなあ。

 とりあえず、愛想笑いを浮かべて「違いますよ」と返しておいた。



「……まあいい、勝手にしろ。ただし怪しい真似を一度でもしたら、容赦はしない」

「こ、心得ております……」



 またまた声が裏返り、背筋を伸ばしたまま固まってしまう。トビは鼻を鳴らし、マントを翻し部屋を出た。


 良かった、正直一緒に行きたくなさすぎて泣きたいけれども。これも私の心の平穏のためだ、頑張ろう。




 握りこぶしを強く握り、さらに意思を強固にした。



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あきゅろす。
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