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めぐりめぐって
葛藤、不満、恐怖の夜
 その後のことに、特筆すべき事はないだろう。



 父さんが帰ってくるまで、トビには私の部屋で待機してもらうことにした。リビングでは私と兄さんが作戦会議をば。無駄に尽きるかもだが、何かしてると気が楽だったし。


「どうする、絶対父さん母さんと同じ反応するぞ?」


 ため息を零しつつ尋ねると、兄さんはゲンナリと首を振った。



「いや、母さん以上だろ。父さん、アニメマンガ系一切見ねーし」



 そういって、兄さんはキッチンへと目を向けた。釣られるようにちらりと覗けば、母さんは晩御飯の支度をしている。

 んー、なんというか懐かしい。引きこもってるから自分の部屋に篭りきりだし、リビングに長居すること自体珍しいんだな。あまりの情けなさに思わず苦笑い。

 先程母さんに処置してもらった首の辺りを撫ぜる。ガーゼが大袈裟なくらい貼られていて、又もや苦笑いしてしまう。「怪我したらすぐ言いなさい」と、お小言を貰ってしまった。

 私を怪我させた張本人であるトビの存在に疑問を持たなくなった母さんは、不気味ではあったが、まあ、仕方がないね。



「……父さんにも幻術かけてもらうかね」



 私の呟きに兄さんは汚物を見るような表情になる。ひどい。



「仕方ないじゃん、ほっときゃ父さん通報するでしょ」

「まあ……そうだよなあ……ってか、ホントお前なんでアイツをここに住まわせてやることにしたんだよ? 馬鹿なの?」

「逆に聞くけどお前あんな危険物が目につかないとこにいても安心できるの? 家っていう限定された場所にいるってわかってるだけまだ安心だろ」

「………………まあ、なあ。
 代わりに俺らの心労はMAXだけどなクソッタレ」



 ぐちぐちと嫌味は言ってくるものの、ある程度私の気持ちを理解してくれたらしい。それ以上は何も言わなかった。



 話し終えた後に、私はトビに父親の存在を話した。母親よりも堅物なので騒ぐだろうし、母と同じ幻術をかけてくれないか、と。


 腑に落ちない、と言いたげにトビは問うた。
 曰く、何故家族に妙な術をかけることを推奨する、とのこと。

 対する私の答えは明白だ。父さんが騒げばトビにとっても不都合だし、それで父さんがトビに襲いかかるなんてことになれば結果は見えている。母さんの様子からしてもあの幻術は副作用が無いし、必要な事なら仕方ない。



「だから、お願いします。
本当は……その、あんまり幻術とかは使って欲しくない、けど。多分これが一番平和に済みますから」



 ええ、恐怖とかその他諸々でどもってしまう私の情けなさを笑ってください。

 目も合わせてない? それは当たり前だろうちは相手に死ぬ気か。幻術以外にも消えない炎とか出せるんだぞコンチクショウ。


 トビが了承してくれたので、私はホッと一息ついて退室した。うーん、自室なのに「失礼しました」って口にしちゃうこの違和感! 悲しい!

 というわけで早速客室の掃除に取り掛かった。半ば物置と化していたので、荷物の類はとりあえず隅に固めておく。
 適当に掃除機をかけて、布団とかシーツ類を新品にしておいた。替えのシーツ類も予め見えるところに掛けておいたので、これで問題ないだろう。



 よし、終わった。作業中首の傷が何度も痛んだが、傷は開いていないと思いたい。

 何故そこまでして急ぐのか、との問いには非常に簡単に答えられる。
 引きこもりなのに自室で過ごせないのは困りものなので。我ながら屑な答えだけど、こればかりはどうしようもない。




 とまあ、そんなこんなで今日は終わった。

 帰宅した父さんに対し、早々に幻術をかけてもらい形式的にトビを説明し、ご飯を食べて眠りにつく。

 既にトビには客室に移ってもらったので、気がかりなことは無くなった。ホント、一息つけるというものだ。


 あ、トビは食事がいらないらしいので夕食には同席していない。これが一番嬉しかったね。何が悲しくてあんなコスプレ仮面野郎と飯食わなきゃならんって感じだし。




 でも、なんで食事いらないだろアイツ。波風ミナトと闘りあってた時も腕がドロドローっと溶け落ちてたし、訳わからん体してんのな。いや、あの世界の人間は大概デタラメ人間の万国ビックリショーって感じだけども。



 実は、私はNARUTOを60巻までしか持ってないので、トビについて詳しく知らない。


 ただ、ネットでたまにネタバレを見ていたのでトビの正体がうちはオビトだとは知った。
 その当時は誘惑に負けてネタバレを見たことを後悔したものだが、こんなことになった今は見ておいて良かったと安心している。

 まあでも、なんで彼が闇落ちしたかは全く知らないんだけどね。




 で、ここで1つ問題発生。

 万が一トビにNARUTOの単行本を見られでもしたら、非常にマズイ。
 単行本自体は私のものだが、私の部屋に置ける量ではないので兄さんの部屋に置いてある。いつもは読むときわざわざ取りに行かなくちゃいけないし面倒だったけど、今回ばかりは助かった。

 私の部屋にあったら色々危なかった(トビに見つかる可能性がある)だろうし、本当に一安心です。


 でも、このまま家にNARUTOを置いておくのは危なそうだし、明日まとめて売っぱらうことになった。
 悲しいけど仕方がない。引きこもり風情が贅沢をした罪だろうと諦める。



 深夜になっても、すぐ近くの部屋にトビがいるという事実に不安を覚え眠れなかった。


 が、奴が私を殺すメリットは恐らく無いだろうし大丈夫だと言い聞かせて布団に入り目を瞑った。
 明日は今日よりも、ずっと穏やかな1日を過ごせますようにと祈りながら。









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 とりあえずひと段落。

 やっぱり逆トリモノの最難関は親理解してくれるかどうかですね……血の気の多い奴が逆トリしてきたら(飛段とか)どうなるんでしょうね……見たいけど怖い……_(┐「ε:)_


 作中にもある通り、主人公はNARUTOを60巻までしか持ってないです(*'ω'*)

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