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5月5日、子供の日。
ゴールデンウイーク中の為人気のない学校の応接室で一人の時間を堪能していた僕は、突如感じた草食動物達の気配に眉を顰めた。
大勢の足音と話し声がこちらに向かって来るのに、とりあえず武器を構える。
ガラッ
「ヒバリさん居ます、か……、ひっ?!」
扉が開いた瞬間を見計らい振り下ろしたトンファーを、山本武が刀で防ぐ。当たるはずだった沢田綱吉はと言えば一瞬固まってからのけ反っている。反応が遅い。
「テメッ!十代目に何しやがる!」
「大丈夫か?ツナ」
「う、うん。ありがと山本」
直ぐに山本武、獄寺隼人の背に庇われた沢田を見ると無性にムカついた。群れるな。
「登校を許可した覚えはないけど」
「そう言うな雲雀」
武器を構え直して言い放てば、彼等の後ろから子供の声が掛かって。
「赤ん坊」
「チャオッス」
笹川京子に抱かれて赤ん坊が入って来た。隣に居るもう一人の女子は、並森の制服を着ているが確か他校生のはず。そう思って眉を寄せると意図を汲み取った赤ん坊が見逃せ、と笑う。
「一応制服は着てるぞ」
まあ確かに沢田達は勿論赤ん坊まで並森の制服を着ているけど。そういう問題じゃない。
「雲雀」
「…はぁ、今回だけだよ」
赤ん坊に借りを作るのも悪くないか。渋々了承すると歓声を上げる女子達と沢田、山本。一緒に笑い合う様子を見ていると沢田も女子みたいだ、と下らない事を思って、そう思った自分に失笑した。
「何に使うか知らないけど好きにしなよ。僕は見回りに…」
「ヒバリさん!」
群れるのは御免だと窓から外へ出ようとしたのを、沢田に呼び止められる。しかもこんな時だけ素早く動いて、僕の学ランを掴んでいた。
「…なに」
「あ、あの…ヒバリさんもここに居てほしいんです」
「嫌だよ」
ムカムカする。ギッと睨みつければ沢田は怯んだが、学ランを離さなかった。それを意外に思っていると沢田が後ろを向いて何か合図を送る。
「せーの、」
『ハッピーバースデー!!』
パァン!クラッカーが鳴らされ声を合わせて叫ばれる“おめでとう”。騒がしく草食動物達がパーティーらしい事を始める。
「ヒバリさん!お誕生日おめでとうございます!」
「………ああ、僕か」
誕生日。覚えてはいても特別に感じた事なんてないから、ピンとこなかった。
頷くと照れた様に沢田が笑うから、つられて笑ってしまったじゃないか。それに一瞬驚いてから(失礼だ、僕だって笑いぐらいする)更に笑みを濃くした沢田が僕に何か渡して他の草食動物達の所に戻って行く。それを目で追うと他校生の女子、山本にもおめでとう、と声を掛けていた。
「山本もハルも雲雀も誕生日が近いから、どうせなら大勢でワイワイやろうってツナが言い出したんだぞ」
「赤ん坊。それって嫌がらせかい?」
「まさか。だがなんせダメツナだからな」
「………」
開けないのか、と赤ん坊に言われて思い出し、さっき渡された物を見る。ラッピングされた袋は誕生日プレゼント、だろうか。リボンを解くと袋の中には。
「鳥……?」
僕に懐いた黄色い鳥に良く似た鳥…いや、ぬいぐるみ?それにキーホルダー。
「アイツ、お前がいつも鳥を連れてるから鳥好きだと思ったらしいな」
「随分ファンシーだね」
「似合ってるぞ」
「馬鹿にしてるのかい?」
いいや、と言いながら帽子の下の口元は笑っていた。赤ん坊の癖に僕を子供扱いするのは止めてほしい。
「まぁたまにはこういうのも悪くないだろ?雲雀」
「…群れるのは嫌いだよ」
「そうか、ツナに言っておくぞ」
「……本当君って良い性格してるよね赤ん坊」
ため息をつくと、赤ん坊は口元をそのままに群れる輪の中に混ざって行った。すると入れ代わりに向かって来るのはまた沢田。僕の手元を見て、少し眉を下げた。
「あ。あの…ヒバリさんの好きそうな物、それしか思い付かなくて……」
「そう」
「き、気に入らなかったら捨てて貰っても良いですから…」
「捨てないよ」
「え」
「ありがとう、沢田」
「!!」
礼を言うと、何故か真っ赤な顔で沢田は俯いた。僕はと言うと…、その姿を可愛いと思ってしまっていた。
「…まぁ、確かにこういうのもたまには良いかもね」
「え?」
「何でもないよ」
5月5日。今日は僕の誕生日。
沢田がもう一度、おめでとうございます、と微笑んだ。
end*
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