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夜の公園を手を引かれ歩いていた。完全に日が落ちきってから眠る準備に入った所を強引に連れ出されたというのに、相手はさっきからずっと無言の上、固い雰囲気にこちらから話し掛けることさえ憚られて、綱吉は気まずいままで着いていく。
ちらほらと夜桜目当ての花見客が通り過ぎる。それを何とは無しに目で追い掛けると、よそ見は駄目だよと制止された。
久しぶりに言葉を発したのに、続くかと期待して向き直って見るもそれ以上その低い声を聞く事もなく、それ以前に彼はこちらを見てさえいなかった。
何だか一緒に居るのにそうじゃないような、まるで自分だけ疎外されているみたいに感じて。ちょっと泣きそうになってきた。

「沢田、こっち」

「?」

そんな時不意に名を呼ばれて、彼が立ち止まった所まで距離を詰めた綱吉は。

「う…わぁ…!」

見えた景色に息を呑んだ。

園内の小高い丘、その頂点に一際立派な桜の木が満開の花を咲かせ、そこから見える見知った町の所々にも桜色が点在して、全てが月明かりを受けて幻想的なまでの美しさを作り出していたのだ。自分が知る昼間の景色とはまるで別世界。時を忘れいつまでも見入っていたいと思わせた。

「…綺麗、ですね」

「そう思うかい?」

「はい」

彼の言葉に頷いて振り向くと、月光を受け力強く咲く桜を背にとても穏やかな表情の彼がいた。綱吉が知る凶暴な彼とはまるで違う、柔らかな雰囲気。思わず見とれてしまったのは、彼か桜か。彼が口を開く。

「沢田綱吉。僕は君が好きだ」

「…!ヒバリさ、」

「黙って聞いて」

「………」

「この景色を巡回中に見付けた時、僕は美しいと思うより先に君にこれを見せたいと思った」

「!」

「君ならきっと喜ぶだろうと思うと居ても立ってもいられなくなって、君を連れ出した。そうしたら君は本当に喜んでくれて」

「………」

「気付いたんだ、君が好きなんだって」

綱吉は告白を聞きながら彼が背にする桜と彼とを重ねていた。美しく、力強く、そして儚い……。
彼は言い切ると口をつぐむ事で返事を求める。けれど綱吉の答えは『はい』ではなく『いいえ』でもない、何と言えばこの気持ちが上手く伝わるだろうか。
無言の二人の間を風と共に桜の花びらが通り過ぎて行く。その一枚をふと手に取り、綱吉は微笑んだ。

「桜は……、満開に花を咲かせた姿は綺麗過ぎて手を伸ばしたって遠くて、でも儚く散るとぐっと近くなるんです。だから俺、散った後の桜の絨毯の方が本当は好きで」

彼は黙って綱吉の言葉を聞いている。少し、見とれている様にも見えた。

「ヒバリさんは桜に似てて綺麗だけど。もっと近くなってくれなきゃ俺が届きません」

だからまずは、と彼に向かって手を差し出す。

「お友達になって下さい!」

「!」

それを見て、キョトン、と彼は目を丸くした。

「つ、付き合うとかそういうのは、もっとヒバリさんの事知ってからが良いです…ダメですか?」

付け足してから照れがきたのか綱吉が頬を染めるのに、二度瞬いて。

「………フフッ」

「?!」

「良いね。やっぱり君は面白い」

「ヒバリさん…?」

「じゃあ友達から…始めようか?」

フワリ、あまりに自然な動作で彼の唇が触れるのに反応が遅れて、再び桜が視界に戻ってから綱吉の思考回路は停止した。

「ワオ。顔が真っ赤だよ『綱吉』」

「………!!?」

友達からって言ったのに!
綱吉の叫びに驚いた桜達が、一斉に夜空に舞った。







end*

UVERworldの曲で「綺麗な景色を見た時美しいと感じるより先に君に見せたいと思った」って歌詞があったなぁと。
冒頭で無言だったのは早く見せたかったからですね。



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