SS
3/23 (?年後)
さようなら
お前は笑って背を向ける。
慌てて伸ばした手が掴んだ物は―――、
「痛」
短く悲鳴が上がって殺気が突き刺さった。反射で眠りから跳び起きて臨戦体勢を取るが、直ぐに収められた殺気にあれれと首を捻る。するとペシリと頭を叩かれた。
「こら」
振り向くと寝ていたらしいソファーの横に骸が立ってこちらを睨んでいる。よく見ればここは骸の部屋だ。あれ、じゃあ今の殺気は骸じゃないかとジロリ睨めば、意図を汲み取った彼が、手、と短く言ってきた。
「手?」
それに目線を下げると、何かを握り込む俺の右手があった。
「何これ」
「よく見なさい。僕の髪だ」
更にその手の中の物を辿ると成る程骸の髪である。どうやら俺は相当寝ぼけている様だ。
「早く離しなさい」
「あ!ごめっ………んん?」
「…どうしました」
「指が開かない」
「?」
開こうと意識してみても、俺の手なのに逆に強く握り過ぎて震えるばかり。なんだこれ。
「…大丈夫、離しなさい」
「あ…」
それなのに骸がそっと握り込むと簡単に緩んでしまった。スルリと長い髪がすり抜けていく。開いた俺の手は白くなってじっとり汗をかいていた。それを見た骸が僅かに眉を寄せる。
「綱吉君、君、何か気に掛かる事でも?」
「え?」
「…何の夢を見ていました?」
「夢…?」
「そう、先程見ていた夢です」
静かに問い掛けて来る骸の表情が至極真面目で、とてもじゃないけど忘れた等と言える雰囲気ではなく、俺は何とかぼやけた記憶を辿ってみる。
「………骸が居たよ」
「ほう…それで?」
「それでって?」
「他には」
「いや、それしか覚えてない」
苦い顔をしてそう答えると、ふむ、と骸は考える素振りを見せた。
「僕…ですか…」
「何?」
「いえ……、大丈夫ですよ」
その時の骸はあまりにも優しく微笑むものだから、何が、とは聞けなかった。
後から聞くとその時の俺は、骸とは反対に泣きそうな顔をしていたらしい。
「僕は君の側に居ますよ」
end*
夢には精神状態が顕著に現れるらしいですね。
カズナは一時期何かに追い掛けられる夢を良く見ました。
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