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呆れて物も言えない、とは正にこの事だろう。
授業中、それも風紀委員会使用の応接室のソファーで、生徒が一人気持ち良さそうに夢へ旅立っていたのだ。
現在この部屋の主である風紀委員長の雲雀恭弥は、明ら様に不機嫌な顔でそれを見下ろしていた。
授業に出席していない事もそうだし、勝手に応接室に入っていた事も燗に障った。そして何より、自分のテリトリー内でこうも無防備な姿を晒している事が腹立たしかった。
(起こして、咬み殺そう)
幸せそうな寝顔に苛立ちが頂点に来て、物騒な計画を立てその胸ぐらを掴んだ時、
「ヒバ…リさ…」
と、彼が寝言で自分を呼んだ。
それによって夢の内容にほんの僅か興味が湧いて、短く何、と答えてみる。
「ヒバ…さ…、…き……」
「き?」
「…好き…です…」
「!」
何を言っているのだこの男は…と雲雀は珍しく驚愕に目を見開いた。
そのまま寝顔を凝視していると、唐突ににへらと笑ったものだから、思わず今度は掴んでいた手を離すと自分の口を覆う。
嫌悪とも怒りとも違う、別の感情が頭に涌いてくる。
思考が…着いていかない。
「…沢田?」
「ヒバリさん」
静かに名を呼んでみると、また笑顔で返されて。
ふらり、と雲雀はよろめく様にソファーから離れた。
「好き…?」
手が離れた雲雀の口元は、小さく笑っていた。
*****
「……あれ?」
うたた寝から目を覚ました生徒、沢田綱吉は起きてすぐ首を捻った。
「俺、いつ寝たんだろ」
風紀委員に呼び出しを受けてここに来て、雲雀さんが居ないから待つようにと草壁さんに言われて…と、思い出してふと夢にまで思考が飛んだ。
「そういえば、変な夢見たな。…ヒバリさんに雪が好きです、なんて」
呟いてから時計を確認して、慌てて立ち上がる。
「授業始まってるしー!」
叫びながら教室へ駆け出した彼は、体から滑り落ちた学ランに気付く事も、それを掛けた人物を知る事もない。
end*
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