紡ぐ名前6
僕を見る兵太夫の目は、いつも泣き出してしまいそうに見えた。
彼以外の人の目もそうだ。僕を呼んで、泣く、泣く。
だから、僕は人間とはそんな生き物なのだと思っていた。愛していると泣くのが正しい形だと信じていた。
だからだろうか、目の前の人が兵太夫と同じ人間だとは到底思えない。泣いていない、むしろ微笑んでさえいる。
これは、なんなんだろう。
「こんな所に隠れてたのか」
「アイツは留守?」
「…なんて、な」
兵太夫はまだ戻らない。返事をしない僕に話しかけ疲れたのか、単に話の種が尽きたのか。
彼は僕の隣に座って、小さく呟いた。
「ごめん、ごめんな、」
「僕はまだ、アイツを失う覚悟を決められないんだ」
だから、僕に兵太夫を返してくれ。君の名前と一緒に。
嗚呼、何時もの様に音もなく扉が開く。
暗い部屋に光が射した。
そして僕はその時、確かに少しだけ息をしていた。
(紡がれた名前は)
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