月とてのひら






あの夜の匂いを、あなたは覚えているだろうか。ひんやりと冷たい風が俺達を凍えさせて、それをみたあなたが手を繋いでくれた夜の匂い。
俺達がほんの小さな子供だった頃のように、しっかりと握った手のひらは温かく、大きく、固く、優しかった。手を繋いで、うちにかえろう。
何年も前のあの日、あなたがこの世の全てを憎み泣いた事を知っている。
俺達の前では大きく優しい父親であったあなたが、そうなるまでにどれだけのあの日を越えたのだろうか。俺にはまだわからないけれど。手を繋いで、かえろうと言って笑うあなたしか、俺達は知らないけれど。

ただ、俺がわかるのはいつかのあの日、夜の匂いが冷たく耳をくすぐったあの日、あなたの手のひらがとても優しかった事だけだ。






「クラウド?なにぼっとしてんの」

あなたは、あの日からもずっと俺達に無条件で優しく、暖かい。
こんなに夜が冷たい今日であっても。

「…寒いな、と思って」
「夜だもんなー…4月っても冷えるよなぁ」


そうやって、俺達に手を差し伸べる。
「ほら、手繋いでかえろ?」


その手をしっかりと握る俺は、幼かったあの日となにか変わっただろうか。
もう一方の手を握る、弟も。
あなただけはほんとうに変わらないけれど。



手を繋いで、うちにかえろう。
あなたが俺達の大切な人でいてくれる、この時を大事にして。



/BGMはランクヘッドさんの素敵な曲を。
題名まんまです。






あきゅろす。
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