マイ スウィート ダーリン


要は子供なんだ、スコールは。

きっかけはいつもの通り父親だった。いつもの通りに係のクラウドが夕飯を作り、いつもの通りに父のグラスに一杯だけビールをつぎ、いつもの通りに3人でテーブルを囲んだ。
いつもの通りに今日の出来事を話して、笑って、それで。


いつもの笑顔で父はいった。


「あ、お父さん土曜日に合コンいってきていい?」



お前何歳だとか。
決めてる癖に聞くなとか。
空気読めとか。



その全てのツッコミを飲み込んでクラウドは立ち上がった。
無言で立ち上がり走っていった弟を追いかけるために。





マイ スウィート ダーリン





そのきもちに気づいたのは、12の時だった。
生まれてからずっと3人で暮らしてきて、それがあたりまえだと思っていた。


17になった今だから言える事ではあるけれど、クラウドはどうも早熟な子供で、その頃の少年たちが夢中になる恋愛事が子供っぽく思えて仕方がなかった。(ちなみにスコールは逆で、遅熟故に恋愛ができなかったらしい。これも今だから言える事だ)

父譲りの整った顔と物静かな空気を持った2人は、その年代の女の子をずいぶん惹きつけたようで。

すきです。付き合ってください。


何回言われたか。

クラウドはその度にうんざりと断ったのを覚えている。
スコールは父に言われた通り毎回「俺は生き別れになったフィアンセを探す旅に出なければならないから」と、痛い事を言っていたようだけれど、(そしてそれに漸く気付いたスコールは一週間程父と口をきかなかった)
クラウドは随分酷い言い方で女の子を傷つけていた。



そう、クラウドが自分の気持ちに気づいたのは、ちょうどその頃。



『人を好きになるって思いを馬鹿にするな』と父がクラウドを叱った。

『お前、絶対大人になったら悲しくなる。人をすきになって、でも、そのきもちが通じなくて、苦しくて、痛くて、痛くて。その時に絶対思う。最低だって、思う。』


今はわからなくても、絶対。
ぜーったいだ!!






確かに、わからなかった。

でもその時、思ったんだ。




(おれは、そのきもちを、知ってる)





例えば、あなたが俺に背中を向けて眠っているとき。


例えば、あなたが優しい目であのひとの写真を眺めているとき。


例えば、あなたが。

例えば、




(ねえ、おとうさん)





すとん、と降りてきた気持ちは呆れる位に痛かったのを覚えている。

だって、馬鹿みたいだ。
すきなひとが、あなただなんて。
馬鹿みたいだ。






それから今まで、クラウドの気持ちはずっと変わらない。

女の子に告白されたときは、自分に出来る限り丁寧に対応している。ごめん、俺、どうしても恋人になれないけど、どうしても好きで仕方がない人がいるんだ。だから、あなたの気持ちが痛いくらいわかる。でも、ごめん。



おかげでさまでどうも女の子の友達が多いという事実も付け加えておく。




「…つまりクラウドは父さんがすきなのか?」

端正な顔を思い切り間抜けに作り替えて、スコールはクラウドを凝視した。

「うん」

「おれ、全然知らなかった」
「まあ言わなかったし」
「…俺、父さんの合コン嫌だって思ったんだ」
「おれも」
「それって、」



ようやく、スコールが全てがつながった様な顔をした。


「スコールは、子供だ」
「言うな……今おれもすごくそう思ってるから」
「気づいた?」



ああ、と低く呟いて、スコールはうなだれた。

「…まあ気付いた時ってそんなもんだと思うぞ」




だって父親だし、と続けてクラウドはまるい頭をわしわしと撫でてやった。それを鬱陶しそうにのけて、スコールはうんうん唸っている。


「間違ってるんだよな?これ」
「間違ってると思う」
「でも…すき、だなあ」



間違ってはいる。わかってはいる。クラウドだってスコールだって、わかってはいるんだ。でも。



「俺、父さんに合コンいくなって言いたい」
「俺もいいたい」
「言ってしまおう」
「それが良い」



でも、やっぱりすきだし。


「寂しいからやだって言ったらうまくいくと思う人!」
「はい!」




だから、それでよしとする事にする。クラウドは納得してよし、と頷いた。仕方ない。ふたごの意見が揃えば、父親に勝ち目はないのだから。


「じゃあとりあえずお父さんのところ行くか。多分凹んで死んでる気がする…」
「あ…」
「凹ましとけ。良い年して合コンとか言い出した方が悪い」





多分、この恋に終わりはない。
だってクラウドにしたってスコールにしたって、結ばれる事はないのだから。

だから今位は、自分たちが父親が必要な子供である時くらいは。

「ちゃんと、恋しても、良いんだ」


好きな人が、あなただと。
思ってもいい、でしょう?



そうひっそりと笑って、クラウドはリビングに続くドアを開けた。





/My Sweet Darlin'
これも書かせていただいたものでした。



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