かわいいひと




絶対、笑われると思った。
それ位静緒と臨也は仲が悪くて
それは当たり前の話で、成り行きで一緒にはいるけれど、
それは臨也が男で静緒が女だからだ。
ずっとそうだった。


変わったのは、自分だけだと思っていた。





「っん、はぁっ」


出来るだけ声を抑えて、しっかりと閉じた内腿を擦り合わせて。
胸元に抱き締めているのは臨也の香りがするジャケット。いつもの香水と、その奥の肌の、匂い。
今、自分がとんでもない事をしているのはわかっていた。
女としては相当恥ずかしくはしたない。しかも相手があの折原臨也だと思うと余計。
ジャケットをおいたままだという事は、すぐ帰ってくるだろう。ソファでこんな事してるなんて。じわりと下半身が湿り気を帯びる。こんな、こんな部屋着にしているTシャツとスエットだけのこんな格好で臨也のジャケットの匂いを嗅ぎながら興奮している姿を。わざわざ再確認するのは、きっとそれが余計興奮するからだった。
息が乱れる。

あ、いくのかな。
どこか他人事のようにそう思って、鼻を鳴らした。甘ったるい、吐息が。






臨也と目が合ったのはその瞬間だった。

まん丸になった目と、徐々に熱を帯びていく頬。
それと、全く同じ顔をしている。自分も。






「え、あ、えっと…」
「っぁ、え…」

「それ…俺のジャケット…」
「ごめ、っあ、ごっ」


熱なんか一瞬で冷めた。
見られた、見られた見られた!
当たり前だけれど、"見られたらどうしよう"と"本当に見られた"は全然違う。



「とりあえず…い、やえっと、…ただいま…」
「おかえり…」

こんな状況じゃなければ、この臨也の顔がものすごく珍しいものだと気付けたかもしれない。
真っ赤になって目が泳いで、混乱した挙げ句ただいまなのだから相当だ。
静緒は静緒でどうやったら時間を戻せるかを真剣に考えていたので、その奇跡的な顔には全く気付かなかったけれど。




時間にして2、3分。
先に動いたのは臨也だった。
流石とでも言うべきかどうか、驚いた顔は引っ込み、いつもの憎たらしい表情が浮かぶ。

「なにしてたの」
「…、」


何をしていたんだろう。
一方の静緒はまだ放心していた。
その顔に臨也は手をあて、目を合わせてもう一度言った。

「なにしてたの?お嬢さん、恥ずかしい事してたの?ねえ」
「うっさ、」

そのまま強引にソファの背から静緒に乗り上げる。
息が触れ合いそうな距離まで詰めて、震える手を取った。濡れてる。そのまま目を合わせて指先を口に含んだ臨也に、静緒はひぃと息を鳴らす。

「こんなことしちゃうんだ?」
「だま、んっんん」

開こうとする口を塞いで、臨也はそのまま唇を耳元に滑らせた。

「俺と一緒だね」
「へ…」
「俺だけじゃなかったんだ、俺もね、静ちゃんの事考えるだけで切なくなるよ」


甘く甘く囁いて、指先が身体をなぞる。たどり着いた場所は濡れて、それでもまだ暖かい体液が溢れていた。
それをちゅぷりと掻き混ぜて、内腿には高ぶったものを押し付ける。


「あっ…いざ、やぁ…」

甘ったるい声を出すのは静緒も一緒だ。
白い指が震え、キスを繰り返す唇に触れて、顔をなぞり身体をなぞり、ベルトに触れる。ジッパーを下ろす。


「欲しがりさん」
「っ…わるいかよ…はぁ、ん」

悪いわけないよ、また囁いて、臨也は目の前の細い腰を持ち上げた。跨ってよ、腰振ってよ、いやらしく泣いて欲しがって。恥ずかしがる鎖骨にもキスをして、ふかふかの胸をぺろりと舐めた。
それに応えるみたいに静緒は臨也の額に唇を寄せて、ゆっくりと身体を落とした。2人の指で存分に馴らされた中が音を立てる。



繋がるってきっとこういう事だ。それは2人にはびっくりするくらいに優しくて甘くて幸せで馬鹿みたいな気分だった。普通じゃない2人が泣きたくなるくらいにごくごく当たり前の気分だった。
恋人同士が、身体を合わせる幸せだった。
1人だと淋しくなって、一緒にいると温かくなって泣き出してしまいそうなのは静緒だけでもなくて、臨也だけでもなかった。




「どうしよういざや」
「なあに」



囁いて、好きだと言った。
変わっていく自分は意外と良いかもしれないと思って、少しだけ笑う。
それはきっと、静緒だけじゃない。








/かつて無い甘さ…



あきゅろす。
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