今日、物語に終わりを告げるために、ある陰気な男がここに来ることになっているのです









下らない話だ。
そう心中で呟いて静雄は組んだ足を乱暴に机の上へ放り出した。
大きな音を立てて振動するのを力ずくで押さえつけて大きな溜め気を一つ。
下らない、全くもって下らない。
あの拝み屋を頼らなければいけない自分も、それを理解しようともしない依頼主も、今頃あの本ばかりが延々と積み上げられた埃臭い部屋で気色悪く笑っているであろうあの拝み屋も、皆下らない。




(聞けよ平和島静雄。君は大きな勘違いをしているよ。君程恵まれた環境にいる男が何故そんなにも世界に絶望しているのか。つまりそれは君が恵まれているからに他ならない。持つ者の憂鬱という奴さ。君は探偵なんていうふざけた肩書に執着しているみたいだけれど、それなんてまさにそうさ。退屈してるんだよ、君は。だから少しでも刺激を求めてそんな事をしているんだ。俺との関係が切れないのもそう。君は俺をうざいうざいと言いながら何かあればすぐに俺を頼る。俺が出れば面白い事になるから、そうしたら少しだけ退屈が紛れるから。本当に下らない人間は君だね、違うかい?)


違わない。下らないのは俺だ。
そう言葉にせずに返事をして、静雄は記憶の中でさえ語り続ける拝み屋を掻き消す努力をする。
ニタリと笑う表情さえ完璧に再現する己が疎ましかった。





あのう、と応接用のソファに腰掛けた依頼主が震えた声を出した。
その背後に『見える』のは、依頼内容の真相だ。
その内容さえ説明が出来れば静雄はあの男なんて必要としない。
だが、どうしても静雄にはそれをうまく伝える事が出来ない。それは『見える』だけであって『理解る』訳ではないからだ。
だから今日も仕方なく。
仕方なくだ。




あの男が言うように退屈をしたくないからという訳ではない。
これは不可抗力だ。


大きな舌打ちをして、静雄はビクつく依頼主に向かって声をかけた。
もう少しで、あのガラス扉が開くだろう。
そこから現れる黒装束の男こそが静雄が全くもって呼びたくはなく――若しくは待ちわびていた――拝み屋だ。









すう、と深呼吸し、言うべき台詞を探す。
ガラス扉の向こうに、黒い影が一つ。







『今日、物語に終わりを告げるために、ある陰気な男がここに来ることになっているのです』






/ってゆう…雰囲気万歳!企画物でしたありがとう!!



あきゅろす。
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