愛されたい指先
きれいなうたがうたいたいんだ。
サイケが姿を眩ました。
どこにもいない。傍にいない。
俺は生まれてこのかた経験したことのない寂しい気持ちが胸の中で溢れていて、こわくて、いたくて。
俺たちはヒトの形をしてるけどヒトではないものだから、だから俺たちは俺たちだけを大事にして生きていこうねって言ったのはサイケだったのに。ふたりでいたい、ふたりいればそれでいい。他のものはいらない。
そういったのは、お前だったのに。
臨也さんはなにも言わない。静雄も。存在すらない。もとから在ったのかさえわからない。
だれもなにも言わない。全くの無音、無風。真っ暗な空間。
サイケだけがそこに居たのに。どれだけこの指を伸ばしてもあの掌が受け止めることはなく。
いまは誰もいない、きっと俺でさえ存在しない。
お前を失った此処はこんなにも暗くて寒いんだ。
ねえサイケ、お前は俺なんか必要じゃなかったってことなのか。
きれいなうたが歌いたいって、それは俺達が俺達を大切にする以上に必要な事だったのか。
俺にはわからない。
俺が知っているのはひとつだけ、もうサイケは居ない。どこにも。
どこにもいない。だってもし、サイケが存在するとしたらその場所は。
その場所は俺の傍以外にないじゃないか。
ニンゲンになりたかったよ。
津軽は、壊れた。
何も見ない、聞かない。俺の声も、歌も。
誰も受け付けない、俺すらも。
俺達は、ねえ津軽。俺たちはふたりっきりの存在だから何を失ってもお互いだけを大切にしようねって言ったよね。覚えているだろうか。君は幸せな顔をしたよね。
俺は、そうなろう、そうしようとしただけなんだ。
きれいなうた は 鍵だ。
2人ぼっちの楽園を築くためのカギ。
津軽は何も見ず何も聞かず俺の声さえも聞こえない暗くて寒くて悲しい広い場所でひとりっきり俺を想い歌い続ける。
こんな素敵なハナシ、ないでしょう。
ウイルス?知らないよ。鍵だ、これは俺と津軽のための、楽園の かぎ だ
ニンゲンは嫌いだ。津軽以外の何者も嫌い。必要ない。
でも、津軽はきっとそうじゃないから。
だから、ねえ津軽、俺の津軽。手を伸ばして、もっと。愛してあげる。
一緒に壊れてしまおう?
そして歌おう、やさしいうた。俺達が、俺達にだけやさしいうた。俺たちだけが幸せな、おんがく。
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