お姫様のつくりかた



シズちゃんはさあ、何色がすき?

唐突に。何の脈絡もなく臨也はそう言った。
別に色の話なんかしていない。というか話なんてしていない。
いつものように臨也は静緒のがさつな性格について悪意あるコメントを落とし、それについて静緒が切れて机を持ち上げる。

そんな瞬間にそんなことを言われたものだから、正直静緒には意味がわからなかった。


「…あ?」
「だから、静緒ちゃんの好きな色は、なんですか?って聞いてんの。わかりまちゅかー?」
「…てめ、コロスぞ」
「お口が悪い子だなほんとに!…で?」


何故かしつこく聞いてくる臨也になんだか興をそがれてしまって、静緒は持ち上げた机を降ろした。端は少し砕けているがまだ使えるだろう。よかった…と思ったのは静緒だったのかその机の持ち主だったのか。
――とはいってもその机の主はとっくの昔に教室の外に避難していたのだけれど。


「なんか今日のお前気持ち悪い。…帰る」
「帰っても良いけど質問に答えなよ」
「なんでもいいだろうが!」

言い捨てて背中を向ける。いつもの臨也もむかつくけど、今日のはもっとむかつく。
そんな普通の会話なんてしたら調子が狂ってしまう。

そして、そんな静緒の後ろでは臨也がふてくされたように小声で呟いていた。


「いいよじゃあ…今日のパンツがピンクってことでピンクにしちゃうもんね。後からやだって言っても聞かないもんね」












お姫様のつくりかた。












「だから、なんでこんなことになってるんだ?」

静緒は混乱していた。
好きな色は?と聞かれた日から数日。臨也も静緒も変わらず喧嘩を繰り返していた。嫌味と暴力の応酬はいつもと変わらず静緒の気分を沈めたし、それが解消するような兆しなんてまったくなかったのに。

「なんでって言われてもねえ」

静緒は、臨也と一緒に空中に浮かんでいた。
正確には、ビルの屋上に設置された小さな観覧車に乗っていた。
身に纏っているのはいつもの制服ではなく、淡い桃色のふわりとしたワンピース、それに合わせたレザー地のブーツサンダルと機能よりも見た目を重視したようなカゴバッグ。
ついでとばかりに髪には細身のカチューシャ。
臨也の方もそれに合わせているように制服から黒いポロシャツと細身のデニムに着替えている。
傍からみれば平日のデートを楽しむカップル以外の何にも見えないだろう。


「シズちゃんもたまには女の子らしいことしたいかな?って思っただけ」
「はあ?」
「ホラ、俺みたいなカッコイイ男の子とデートなんてシズちゃん一生無理だろうし」
「頭わいてんの?」

冷たく切り返すと臨也はなんでもない様に笑った。
長い足を組みかえる姿は確かに嫌味な位絵になるけれど。

「…それに、コレ」

そう言って静緒は膝の上に広がるスカートを摘まむ。
突然手をひかれ連れて行かれたショップですでに用意されていたワンピース。
雑誌で見ること位しかできなかったふわりとした生地、やわらかいシルエット。
かわいい、本当に。けれどこんなもの、似合わない女に着せてどういうつもりなんだろう。


「それ、好みじゃない?」
「…え?」
「好きじゃなかった?」

臨也は窓の外に目をやりながら言う。


「どんなんが好きとか、色、とか。教えてくれないじゃん」
「いざ…」
「だから俺の趣味で選んじゃったよ!これで着てるのがねえ…おしとやかでかわいい女の子だったらねえ」

「…っそう、悪かったな!」
「本当にね。…で、何色がすきなの?どんなのがすき?」
「…これが、すきだよ」


それは紛れもなく本音だったけれど、相手はそうくるとは思わなかったらしい。

今度息をのんだのは臨也の方だった。
不意打ちに切り返されて、その頬が紅く染まる。
静緒の方はと言えば必死に隠してはいるが、すでにもう林檎のように紅くなっていた。
いつもは机やら壁やらを破壊しているその手はよく見ると小さくて柔らかい女の子のもので、険しく寄せられている事の方が多い眉も、今日は恥ずかしげに下がっている。

ああ、そう。という小さな声に、そうだよと小さな返事。
狭い観覧車の中で向かい合って赤面する2人は、確かに初々しいカップル以外の何物でもなかった。















「帰り、ご飯でも食べていく?」
「ん…マックがいい」
「えええ…せっかく」
「せっかく?」
「…っなんでもない!」














おひめさまのつくりかた!
(いちばんかわいい姿は王子様だけが知っています)












「静緒、そのカチューシャかわいいね」
「えっ?う、ん。へへ」
「折原君にもらったのかい?」
「…な、なんでわかるんだ!?」
「え、だって折原君ってもうだいぶ前からいつ静緒をデートに誘うかってすごぐふぁっ」
「新羅!?…臨也!?」
「うるっさい!ばあか!シズちゃんのばあか!今日のパンツも色気なし乙!」
「はあ?てめ、まてってこの、いいいざぁあああやあああっ!!!」






/マイ・フェア・レイディ様に提出分!
お粗末さまでございました!



あきゅろす。
無料HPエムペ!