背後に気配を感じたのは、その時だ。
静緒があわてて振り向く前に後ろから肩を抱かれる。
ふわりと香ったのは、ある意味話題の中心だった男の香水だ。


「なーに話してんの、シズちゃん」
「っ離せ!!」
「えー?やだよ。シズちゃんだって抱きしめられた事なんかないだろ?甘んじて受け入れておきなよ。最初で最後かもよ?」


頭にあごを乗せて、臨也がへらへらと笑う。

今度は悔しさで顔が熱くなった。

臨也はいつもそうだ。
静緒が望んでは諦めようとすることを、わざわざ掘り返して、指をさして笑う。
嫌いなら構わなければいいのに。
そうしたら、帝人だってこわい目にあわずにすんだのに。


その先輩だってそう、こんな奴のどこが良いんだ。
こんな奴。


未だに張り付いている腕を剥がしてやろうと体に力をいれた瞬間。
回された腕が少しだけ浮いた。


見れば正臣の細い、小さな手が臨也の手首を思いっきり掴んでいる。
もう片方の手は甲の部分に帝人がペンの頭をぐりぐりと食い込ませていた。



「いっ…ちょ、何すんだよ!」
「いい加減にしろよ折原!静緒泣きそうじゃん」
「そうだよかわいそうだよ」
「帝人…正臣…」
「はあ?シズちゃんが泣くとか…それにしてもボールペンとか酷くない?めちゃくちゃ痛かったし…」
「だって私…力ないし…」
「だからって…!」


2人して立ち上がり、正臣は喚く臨也を押しやって、帝人は驚きで座ったままの静緒の頭を抱き締める。



「ってかお前のせいで静緒が辛い思いしてるんだから!反省しろ!」
「え、それってひょっとして」
「折原君の勘違い気持ち悪いよ」


帝人が小さく言うと、それになあと正臣が続ける。
戦いは依然として当惑したままの静緒の上で続けられていた。







あきゅろす。
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