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dear teacher









『また、あとで』


画面に表示された文章を読み上げて銀八は口許を緩めた。ぱたん、と携帯電話を二つ折りにしてテーブルの上に置き、窓から覗く空に目を向ける。
今日は空がよく澄んでいて穏やかな秋晴れだ。心地のいい風が少し開けた窓から入り込み、煙草の煙をゆらりと揺らした。
天井に向けて輪の煙を漂わせると、ピンポーンと部屋中に軽い音が鳴り響く。待ち侘びていた音だ。咄嗟に口に咥えていた煙草を灰皿に押し付け火を消し、玄関へと向かった。





「はいは〜…、」
「おめでとう銀ちゃん!」

玄関の扉を開いた先に現れたのは、神楽と沖田と土方で。そして、不機嫌丸出しの土方の後ろに新八の姿が見えた。今の状況を把握できずに銀八は瞬きを繰り返す。

「は?」
「お祝いしにきてやりやしたぜ」
「はぁ?」
「今日、銀ちゃんの誕生日って新八に聞いたネ」

嬉々として話す神楽に頭を抱え扉に凭れ掛かると、神楽が隙を見て銀八の横を通り部屋の中へと入った。

「ちょ、おい!」

慌てて神楽を追えば、後ろからぞろぞろと続いて入ってくる。そして、部屋に入るなり各々好き放題に寛ぎ始めた。そんな三人に苛立ちを覚えて後ろを振り返れば、狭い玄関に靴の山が出来ている。
現状に全く付いていけずに頭を掻いた時、最後に入ってきた新八が扉を閉めて脱ぎ散らかした靴を綺麗に並べていた。縋るように新八の後ろに立てば、慌てて振り返る。

「わっ、びっくりした」
「こっちの台詞だわ、何?何なのアイツら」
「あ〜、あの…。みんなもお祝いしたいっていうから」
「一人機嫌悪そうなのがいるけど?」

こそこそと話せば、背中に視線が突き刺さる。
今日は誕生日のお祝いとして新八を独り占めする予定だったのだが。現実は、違った。
後ろでぎゃいぎゃいと騒ぐ生徒たちの存在に項垂れる。

「台無しじゃねぇか…」

小さく溜め息と共に吐き出せば、新八が不思議そうに首を傾げた。

「先生、」
「ん〜…」
「ほら、ケーキ持ってきましたよ。みんなで食べましょう」

にこりと微笑む新八に胸の奥がじわじわと温かく滲み出す。部屋で寛ぐ三人がいなければ、今すぐにでも抱き締めたい。しかし、疼いてしまう手を抑えて、こほんと咳払いをして誤魔化した。そして、慣れたように台所に立つ新八の後ろ姿を頬を緩めて見遣ると、突然肩を叩かれた。

「銀ちゃん」
「あ?」
「あれ、新八お手製のケーキネ」

イチゴのホールケーキを目にして銀八は生唾を飲み込んだ。生クリームが満遍なく塗られ、その上にはイチゴがたくさん乗っていてとても美味しそうだ。
新八とケーキとを交互にこそこそと見遣ると、視線に気付いたのか新八が此方を向いた。

「先生、ケーキ持って行くからテーブルの上片付けてください」
「銀ちゃん、働けヨ」
「待て待て、俺今日主役じゃね?」

いいから!と、二人に背中を押され部屋へ向かうと、銀八は再び項垂れた。

「暇そうだな」
「俺ァ、新八のケーキを食べにきただけでさァ」
「テメェ、さっきは祝いにきたって言ったよな?」

イライラと頭を掻きテーブルの上を片付ければ、台所から神楽と新八がケーキを持って現れた。そのケーキには細長いロウソクが立ち、ゆらゆらと火が揺れている。テーブルの上にケーキを乗せると感嘆の声が上がり、隣に並ぶ新八がはにかんだ。

「先生、おめでとうございます」
「お、おぉ…、」
「銀ちゃん、早くふーってするネ」

神楽に促され、揺れた炎を勢いよく吹き消した。




小さな部屋に置いている小さなテーブルを五人が囲んでケーキを食べる。
目前に座る新八に目を遣れば幸せそうにケーキを頬張っていた。可愛い表情に思わず見蕩れると、口の端に白い生クリームが付いていることに気が付き、手を伸ばそうとした。しかし、その時

「志村、クリーム付いてんぞ」

低い声にぴくりと反応し、手を引っ込める。そして、新八の隣に座る土方に目を遣れば、新八の口端に付いたクリームを指で拭った。突然のことに驚いた新八が目を丸く見開き、頬を赤く染め狼狽える。

「す、すみません、土方さん」

二人のやり取りを見て銀八は眉根を寄せる。イライラと苛立ち土方を睨めば、口端を上げてほくそ笑んだ。そんな土方に小さく舌打ちをしてイチゴにフォークを突き刺した時、肩を叩かれた。何事かと思い隣に座る神楽を見ると、にかっと歯を見せて笑う。

「銀ちゃん、プレゼント何がほしいアルか?」
「何?くれんの?」
「訊いただけネ」
「…だろうと思ったわ」

プレゼントと言われて浮かぶもの。
視線を漂わせ考えた時、ぱちりと新八と視線が重なった。不思議そうに首を傾げる新八に目眩が起こり額を押さえると、パンッと乾いた音が部屋に響いた。思わず神楽を見遣れば、両の手を合わせて幸せそうに笑っている。

「ごちそうさまネ!美味しかったヨ新八」
「あ、ありがとう神楽ちゃん」
「銀ちゃん。ケーキ食べたから、私たちそろそろ帰るヨ」

元気よく立ち上がる神楽に続き、皆が立ち上がった。素直に帰ろうとする生徒たちに銀八は呆気にとられてしまう。
沖田が言ったように、本当にケーキを食べにきただけのようだ。

「邪魔したな」
「お邪魔しやしたァ」
「じゃあね、銀ちゃん」

玄関先まで向かえば神楽が振り返り、いやらしい笑みを見せる。その笑顔に溜め息を吐きあしらうように手を振った。

「またね、新八」

満面の笑みを見せ手を振る神楽に銀八は口を開けた。慌てて新八を見遣れば、隣に並び神楽に向けて手を振っている。

「え?お前、帰んねぇの?」
「あ…だめ、ですか?」
「……いや、だめじゃないです。大歓迎です」

思わぬ大きなプレゼントに銀八は再び額に手を当て幸せを噛みしめた。





10.10.10
3ZでHappy Birthday:)





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