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いつまでも











「あー重ぇ……食い過ぎなんだよこいつ」

よっこいしょと肩に担いだ神楽を持ち直して階段を上って行く。
そんな銀時の背中を眺めて新八は笑いながら後を付いて行った。


珍しく家賃を払うためにスナックお登勢へと足を運んだ。開店前で忙しい時間帯のため申し訳ない気持ちで店の扉を引いた時だった。店内からけたたましい音が鳴り響き咄嗟に瞼を閉じた。そして、恐る恐る瞼を上げていった時、お祝いの言葉がばらばらと鼓膜を揺らした。目の前には馴染みのある顔がずらりと並びにっこりと笑っていた。ひらひらと揺れる紙吹雪が床に落ちて行く様子も視界に入り瞬きを繰り返した。
一週間ほど前から銀時と神楽がこそこそと話していたのは、どうやらこの日の事だったようだ。広がる光景に新八は嬉しくて立ち竦むと神楽が手を引き中へと導いたのだった。



「楽しかったですね」
「そうだなぁ」
「ありがとうございます、銀さん」

玄関前に立つ銀時の隣に並び、思い出して感慨深く浸ると銀時が頭を撫でる。その大きな手のひらに笑って新八は玄関の鍵を開けた。

「たでぇ〜ま」
「ただいま帰りました」

同時に挨拶をして扉を引くと銀時が乱雑にブーツを脱ぎ捨てる。そして、神楽の靴も脱がせ玄関の床に雑に置いた。そんな銀時に小さく溜め息を吐き出し、ばらばらに散った靴を並べていると、最後に入ってきた定春が「ワン!」と帰りを告げる。

「定春おかえり」

定春を迎え入れ玄関の鍵を閉めると新八に擦り寄り珍しく甘えた。そのモフモフの白い毛に顔を綻ばせる。しかし、甘えは一瞬で終わり、満足したのか定春はマイペースに新八の横を通り家の中へと入って行った。フリフリと可愛らしい尻尾を眺めて新八も草履を脱ぐ。そして、きちんと並べた二人の靴の隣に草履を並べ、大中小並んだ様子に頬を緩めた。


「銀さん、手伝います」

神楽の寝床である押入れの襖を足で開ける銀時を呼べば此方を向く。月明かりを頼りに銀時に近付き神楽の布団を整える。そうして銀時が神楽を敷き布団の上にそっと寝かせ新八が布団をかけた。神楽の寝顔を眺めて笑うと定春が押入れの中へと潜り込む。すっぽりとはまった定春を覗き込むと大きな欠伸をする。

「定春ももう寝ちゃうの?」

よしよしと額を撫でながら問い掛けると小さく「ワン」と鳴いた。毛並を整えるように手で梳いていくとまん丸大きい目がゆっくりと細くなっていく。その様子を眺めて癒されると銀時が新八を呼んだ。振り返り銀時を見遣れば両腕を大きく開いて此方を見遣る。その姿に怖気づき後退すると銀時が一歩近付いた。

「おい、逃げんな」
「え、何ですか急に」
「いいから、こいって」

じりじりと近付く銀時に戸惑い一定の距離を保つよう向き合う。銀時の行動に首を傾げた瞬間、押入れの中から神楽のいびきが聞こえ体がびくりと揺れる。そして、押入れに意識が向いた一瞬で銀時に捕まってしまった。

「わっ、ちょっと銀さん」

突然抱き締められたことに狼狽え銀時を見遣れば視線が重なる。ガラス一枚挟んだ瞳が少しだけ潤んで見えて小さく笑う。少しアルコールを摂取した為か体温も上がっているようで。そんな銀時を眺めて頭を撫でると、はぁと溜め息を吐き出し新八の肩に額を乗せた。

「……やっと二人になれた」
「ふふ、そうですね。銀さん、さっちゃんさんからずっと離れないから」
「いやいやいや、あいつが離れねェーの!離してくんなかったの!マジ勘弁してほしいわ……」

慌てて顔を上げ、必死に訴える銀時がおかしくて思わず吹き出して笑う。すると、不貞腐れたように口を尖らせ此方を見つめる。

「わかってますよ。ちょっと妬いただけです」
「……え?」

さっちゃんの素直過ぎる愛情表現に毎回感心してしまうほどだ。見習いたいけれど羞恥心が勝ってしまう。しかし、今は充分に甘えることができる雰囲気だ。そろそろと銀時の腰に腕を回し体を預けた。重なる温もりに安心して小さく息を零す。

「……新八ぃ」
「はい」
「おめでとう」

低く照れ臭そうに告げる銀時に瞬きを繰り返す。突然の言葉に顔が緩んでしまう。嬉しくてさらに体をくっ付けると銀時が顔を覗き込んできた。間近に現れた銀時の瞳に新八が映り込む。大きく瞬きを繰り返すと、唇に柔らかな感触が広がった。重なった唇からアルコールの味が伝わるようで酔ってしまいそうだ。熱い舌にも翻弄されくらくらと目眩が起こる。

「……ん、」

角度を変え深く深く交わる口付けに体の力が抜け銀時にしがみ付いた瞬間。ふわっと体が浮かんだことに狼狽する。閉じていた瞼を上げて確認すると銀時に持ち上げられていた。

「っ!」

咄嗟に顔を動かし口付けを中断すると銀時が和室の方へと進む。そんな銀時に慌てると悪戯めいた笑みを見せられた。

「布団の上でもう一度祝ってやんよ」
「え、いや、あの……皆からたくさん祝って貰ったから大丈夫です」
「遠慮すんなって、何回でも祝いたい気分なんだよ」
「僕はもう充分満足してるんですけど……」

抵抗しても受け入れてもらえず、器用に足で襖を閉める。仄かに月明かりが滲む中、押入れを目指し歩く銀時に降参して息を吐く。先程までの賑やかさが嘘のようで。銀時が畳を踏む音に耳を澄ませると額に唇が触れた。つられるようにそっと視線を上げて重なる瞳に笑えば再び唇が重なる。

「愛してんよ」

ふわりと優しく笑う銀時に胸の奥が痺れていく。溢れる愛しさから涙が視界を揺らし慌てて銀時の胸に額を押し付けた。

「僕も、愛してますよ」





2015.08.12
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