カラフルデイ カーテンの隙間から太陽の光が漏れてはゆらゆら揺れる。瞼を優しく刺激する明かりにより眠りから覚めて寝返りを打つ。そして、小さく唸ると額に柔らかな感触が広がった。 「……んん、せんせぇ?」 「うん、おはよう」 低く囁く声に頬を緩め瞼をゆっくりと開けると目の前に銀八が現れる。間近に迫る銀色が眩しくて目を細めてもう一度瞼を閉じた。 昨夜から銀八の家に泊まりにきていたことを思い出し気恥ずかしい感情が滲み出る。久しぶりに二人きりになれた昨夜は甘く過ごしたのだ。体をくっ付けて互いの体温を分け合うことに幸せを感じて笑った。 「ご機嫌だな」 新八につられて笑う銀八が頭を撫でる。ゆっくりと髪を梳くように撫でる指が心地良くて瞼を上げた。その瞬間、先程も感じた柔らかな感触が唇に触れる。驚き目を見開けば視界いっぱいに銀八の睫毛が広がった。 「……んん」 しっとりと重なる唇が下唇を啄ばみ刺激する。昨夜も何度も深く重ねては蕩けてしまった。銀八からの愛撫に幸せを感じ、顔の角度を変え深く重なると濡れた音がいやらしく鼓膜を揺らす。羞恥心が滲み体を捩れば銀八の手のひらがそっと太股を撫で驚いた。その撫でる手のひらの熱さに溶けて行きそうで慌てて手首を掴み制止する。 「……だめ?」 「だめ、です」 間髪を容れず答えれば、唇を尖らせて枕に顔を埋めた。三十路前の男が子供のようにいじけることに呆れてしまう。小さく溜め息を吐き寝癖が付いた髪に指を絡めた。 (……ふわふわ) 触り心地のいい髪をわしゃわしゃと掻き乱し遊ぶ。頭皮に指の腹を押し当てそっと揉んでみると篭った声が響いた。その声に笑ってマッサージをするように指に力を込める。頭から首、肩へと下ろして行きマッサージを続けると感嘆の声が上がった。 「やべぇ……気持ちいいぃ、」 うっとりと呟く銀八に笑ってしまう。普段白衣で隠れている銀八の鍛えられた体は羨ましいほどに整っている。引き締まったしなやかな筋肉に苛つきさえ覚えてしまうほどだ。その広い背中を預ける銀八につい悪戯心が芽生える。無防備な背中を手のひらで撫でた後、ツツツーと線を引くように爪を立てれば悲鳴が上がった。 「おおお擽ってェ……!」 「今寝そうになってましたよね?」 「……寝てねぇよ」 「もう、ほら起きましょう。僕お腹すきました」 枕元に置いていた眼鏡を掴み取り、定位置に装着すれば視界が一気に広がる。ゆっくりと体を起こし猫のように腕を頭の上まで伸ばす。そして、床に散らかった服を眺めて眉根を顰めた。余裕がなくなるほどに互いを求めた行為を瞬時に思い出しては体温が上がる。慌てて頭を軽く振り、小さく溜め息を吐き出して行方不明の下着を探す。ベッドの上には銀八の白いシャツが乗っているだけで。もう一度床を見渡し布団を捲って確認してみるが見当たらない。 「先生、」 「ん〜」 「僕の下着知りませんか?」 「……ん?脱がした後どうしたっけ?」 首を傾げる銀八に項垂れ再び溜め息を吐いた。 「探しとくからお前先風呂入ってこい。飯も用意しとくからよ」 「え、いいんですか?」 「おー今日は特別だからな」 体を起こした銀八が新八の頭を撫で回しゆっくりと笑う。そして、ベッドから降りると板張りの床がぎしっと鳴いた。寝室から出て行く銀八を眺めてこっそりとはにかみ新八も銀八に続けてベッドから降りようとした時。ごとり、鈍い音が鳴り体が跳ね上がった。 音のした方へと視線を向けると、新八の携帯電話が床に落ちていた。その携帯電話を救い出すと通知ランプがチカチカと輝いていることに気が付く。咄嗟に銀八に取り上げられサイレントモードに設定されていたことを思い出す。誰にも邪魔されたくないから、と不貞腐れたように呟いた銀八を思い出して笑みが零れた。頬が緩んだ状態でぱかりと開けば画面に表示されているメッセージに目を見張る。 「……みんな覚えててくれたんだ、」 受信ボックスに並ぶクラスメイトの名前に瞬きを繰り返す。一人一人開いては胸の奥がじわりと温かく広がった。 「新八ぃ〜寝てんのか?……って、え?なに泣いてんの」 「……せんせ」 「具合悪ぃ?」 心配した面持ちで近付く銀八にぶんぶんと頭を横に振る。 「ちがうんです、」 「ん?」 「みんなから、いっぱいメール貰って」 「あぁ〜なるほど」 携帯電話の画面を見せると銀八は安堵したようでベッドに腰を掛けた。二人分の重さを支えるベッドがぎしぎしっと鈍く鳴く。 夏休み真っ只中の日に誕生日を迎えるため忘れられる事が多かった。今年もきっとそうなるだろうと思っていたら、一番に銀八がお祝いをしてくれた。そして、たくさんのお祝いメールが届き幸せで涙が零れ落ちる。溢れる涙を拭おうと眼鏡をずらした時、覗き込んだ銀八の顔がゆらゆらと揺れて見えた。瞬きをして首を傾げると柔らかな感触が瞼を押す。 「目ぇ溶けんぞ」 「ん……」 「まだ泣くならエッチなことしちゃうぞ」 涙を吸われてにやにやといやらしい笑みを浮かべる銀八がはっきりと見えたことに思わず吹き出した。 「もう平気です」 「そうかよ……」 素早く涙を拭いて伝えると銀八が項垂れ泣き真似をする。そんな銀八に笑って顔を覗き込めば視線がかちりと重なった。優しく労わるように頬を撫でられ胸の奥がきゅうと甘く締め付けられる。 こんなにも幸せな日がきていいものだろうか。自然と綻んでいく顔を抑えて俯くと旋毛に柔らかな感触が広がる。ゆっくりと顔を上げて確認すれば銀八が優しく笑った。 「誕生日おめでとう」 14.08.12 お誕生日おめでとう^^ |