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恋恋8









二本早めた電車に乗車すると朝のラッシュが少し緩和されていた。
扉前に立って辺りを見回せば、見慣れない人ばかりでやはり落ち着かないものだ。


カタンタタン、リズムよく線路の上を車輪が走っていく。
窓から差し込む陽の光が眩しくて目を細め、ぼんやりと流れる景色を眺めた。
小さく息を吐いて、瞼を閉じれば自然と銀時を思い浮かべてしまう。そして、力強く抱き締められた感触と唇に触れた温もりを思い出し体に熱が広がる。今でもはっきりと残っている感触に胸の奥が疼いていった。

「…坂田さん、」

ぽつりと名前を紡いだ時、ちょうど銀時が乗車する駅に着いたようだ。思わず辺りを見回してみるが、銀色は見つからない。その事に小さく息を吐いて残念に思う心にまたも息を吐いた。





「新八?」

ぼんやりと下駄箱の前に立ち靴を入れ替えていた時、背後から名前を呼ばれた。驚いて振り向けば不思議そうな表情を浮かべた神楽が立っている。

「神楽ちゃん、おはよう」
「おはようネ。今日も早いアルな」

首を傾げ隣に並んで靴を入れ替える神楽に誤魔化すよう小さく笑う。
あの日、周りが心配する程に新八は放心していたそうで。後日神楽に聞いて驚いたものだ。
銀時に会いたいけれど、今どんな顔で会ったらいいものかと考えていくうちに時間だけが過ぎていった。
はぁと溜め息を吐き出せば、神楽が顔を覗き込みにやりといやらしい笑みを浮かべる。

「な、に…?」
「そろそろ白状するネ」
「え、」
「銀ちゃんと何かあったアルか?喧嘩でもしたアルか?」

神楽の口から出た名前にびくんと体が跳ね上がった。名前を聞いた瞬間に、銀時の笑顔が浮かび上がり胸が甘く痺れる。咄嗟に胸に手を当て神楽を見遣れば、眉を上げ不思議そうに首を傾げた。

「ど、どうして坂田さんがでてくるの…?」

平静を装い銀時の名前を口にするけれど、頬が震えてしまう。早鐘を打つ心臓が五月蝿いくらいに鳴り響き、生唾をごくりと飲み込んだ。すると、うーんと小さく唸る神楽が顔を上げ意を決したように頷いた。

「わかったネ。正直に話すヨ」
「…?」
「実は、一昨日銀ちゃんから連絡がきたアル。珍しくてびっくりしたネ。銀ちゃん、新八のこと気にしてたヨ。深くは訊いてこなかったけど、新八のこと知りたがってるように聞こえたネ」

正直に話した神楽の言葉に驚き瞬きを繰り返す。銀時と神楽は幼馴染みという関係で、お互いふざけあったり悪態をついたりしているが仲がいいことがわかる。そんな二人の間にひょっこりと現れた新八の事で会話をするだなんて。なんだか、胸の奥が温かくて擽ったい。

「…坂田さん、元気にしてた?」
「うーん…、ちょっと変だったネ」
「変?」
「いつも変だけど、いつも以上に変だったヨ」

一週間会わないだけでこんなにも寂しい思いを抱いてしまうなんて。知り合って間もないというのに不思議なものだ。

「もし…銀ちゃんが原因じゃなくても、新八を困らせる奴は私が相手してやるヨ」
「……えっと、」
「ボッコボコにしてやるネ」

拳を作りにかっと笑う神楽に慌てれば、冗談ヨと小さく呟いた。

「でも、私新八には笑ってて欲しいアル」
「神楽ちゃん…」
「だから、何でも相談するネ!それが親友アル」

神楽を真っ直ぐ見つめれば優しく微笑んだ。その笑顔に安心して新八はつられるように頬を緩めて笑う。そして、小さく口を開いた。






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