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まいった!









金木犀の香りを思い切り吸い込み空を仰ぎ見ると、ひつじ雲がもこもことゆったりと浮かんでいた。目を瞑れば眩しい太陽の光が遮断され、優しく瞼に光を注ぐ。視界が途絶えたことにより、あちこちからたくさんの音が敏感に体の中に染み込んでいった。



「やっぱり屋上にいた」

真上から降ってきた声は聴き慣れた声。温かい日差しが遮られて顔に影が落ち、瞼をゆっくりと上げるとレンズ越しの茶色い瞳と重なった。

「おぉ、志村」
「おぉ、志村……じゃないですよ。もう…、」

訝しい表情を浮かべる新八に銀八は小さく笑って、仰向けに寝ていた体をのっそりと起こす。そして、胡座をかいて壁に凭れると新八も同様に腰を下ろして小さく体育座りをした。

「みんな先生探してますよ?」
「おお〜人気者だな」

にやんと笑みを浮かべて言うと、呆れた表情で顔を覗き込まれる。真っ直ぐ見つめてくる瞳に口端がひくりと上がり、思わず新八から目を逸らした。小さく咳払いをすると、溜め息が聞こえてくる。

「逃げなくてもいいのに」
「ん〜、」

不満そうな新八の頭を撫でると、新八の頬に空気が含まれ膨らんだ。そんな新八に苦笑しながら銀八はポケットから飴玉を取り出した。包み紙を剥がし現れた真ん丸な飴玉を指先で摘んで眺める。すると、突然取り上げられてしまった。慌てて新八を見遣ると、説教をしようとしたのか口を開いたが、諦めたようで溜め息だけを吐く。そして、奪った飴玉を口の中へと放り込んでしまった。

「ちょ、おい」
「先生が糖尿にならないように僕が食べてあげました」

不貞腐れたように言う新八に頬が引き攣り、銀八は咄嗟に新八の両頬を手で挟んだ。

「生意気なこと言うのはこの口か、ん?コラ」
「ん、むぅ―…、」

ぎゅむ、と更に頬を押すと新八が眉間に皺を寄せて唸る。頬を挟んだことにより唇が突き出され、目が離せなくなってしまった。ぷくりとした唇が愛しくて思わず喉を鳴らす。

「んんんー」
「何言ってんのかわかんねぇよ…、」

小さく呟いて新八の唇に重ねた瞬間、胸の奥がきゅうと甘く締め付けられる。啄むように繰り返し軽くキスをして、舌を新八の中へと差し込む。途端に、いちごの味が甘く甘く広がった。新八の熱で溶けた飴玉を奪うと、新八が震える手で銀八の白衣を掴んだ。

「ふ、…う、んん」

零れてくる新八の吐息に頭の中が甘く蕩けてしまう。舌を柔く噛んで刺激を与えれば、小さな体がぴくんと跳ね上がった。震える手を銀八の白衣から離し、手のひらを合わせて指を絡ませる。そして、重ねていた唇を離し額を合わせて覗き込むと大きな瞳がゆらりと揺れた。

「あめぇ…」

真っ赤に染まる新八ににやにやと頬が緩む。そんな新八を抱き寄せて髪に鼻先を埋めると、新八の匂いが鼻腔を擽る。鼓動を速まらせる匂い。忙しなく弾む心臓が苦しくて細い腰に腕を回し、隙間無く抱き締めた。

「…誕生日なんだから素直にお祝いして貰ったらいいんじゃないですか?」
「ん〜…あ、そういえば神楽に貰ったんだった」

少しだけ新八から体を離し、白衣のポケットに入れていた誕生日プレゼントを取り出す。そして、包装紙を剥がしていくと紙の束が現れた。

「肩揉んであげる券…上からだなおい」
「まだありますよ?…ご飯一緒に食べてあげる券って、かわいいですね」
「俺の分まで食べる気だろあいつ。あとは……」

数枚ある中でたった一枚だけ紙質が違う券の文字を目で追い、ゆっくりと新八に視線を向けた。すると、ぱちぱちと瞬きを繰り返した新八が不思議そうに銀八を見上げる。

「これはどういう…」
「そのままの意味だろ?」
「え…?」

首を傾げて再び文字を追う新八が頬を赤らめた。そんな新八を眺めながら神楽に感謝する。いい生徒を持ったものだ。

「……いやいやいや、なんで僕?」
「いいプレゼントだな」
「え、なんで?」
「早速使っていい?」

今にも湯気が出そうなほどに真っ赤に染まった新八が首を横に振る。そっと首を撫でるとぱくぱくと口を開けては閉めた。動揺する新八が可愛くて堪らない。再びぎゅうと抱き締めると、銀八の胸に顔を埋めた。丸っこい後頭部を撫でてサラサラな髪に口付ける。照れているのか、ぐりぐりと頭を押し付ける新八に笑って耳元に口を寄せた。

「新八を好きにしていい券って、どう好きにしていいか迷うな」
「…ば、ばかだばか」

緩む頬をそのままに、新八の顔を覗き込む。困った顔が可愛くて笑みを深めれば、小さく溜め息を吐かれた。

「そういやお前からお祝いされてねぇわ」
「え、あ…」
「素直にお祝いして貰えって志村言ったよな?」

じりじりと詰め寄ると、瞬きを繰り返して恥ずかしそうに下唇をやんわりと噛む。柔らかな頬に人差し指を当てて突っつけば眉間に皺を寄せた。ころころと表情を変える新八が面白くてついちょっかいを出してしまう。
ふっと笑みを零し、新八から目の前に広がる青空に視線を向ける。誕生日である今日は晴天で心地がいい。瞼を閉じて小さくなった飴玉に歯を立てて半分に割った。その時、白衣を掴まれ驚いて瞼を上げると目一杯に新八の顔が広がる。そして、半分に割れた片方の飴玉を奪われてしまった。

「おめでとう先生」

にひひと、白い歯を見せて笑う新八の行動に驚き思わず飴玉を飲み込んだ。なんとも積極的なお祝いにくらりと目眩が起こってしまう。神楽からの券を握り締め、銀八は力一杯新八を抱き締めた。

「ありがとな」




121010
Happy Birthday!!


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