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恋恋7









車内は相変わらず混雑し周りにはむさ苦しい男たちが汗をかき項垂れる。
ただ、ひとつ変わったことといえば、目前に立つ新八が黒の学ランから白のシャツに衣替えをしたことだ。
季節は春から夏へと移り行く。



「今日も暑くなりそうですね」
「そうだなぁ、」

ふう、と息を吐く新八を見遣れば、首筋にしっとりと汗をかいている。細くて白い首筋から下へと視線を移すと、第一ボタンを外していた為、鎖骨がちらりと見えてしまった。思わずごくりと喉が鳴り慌てて目を離し窓の外へと視線を向ける。

(―あっぶねェ…、)

唯でさえ想いを寄せる新八が側にいることに心臓が跳ね上がるというのに。刺激が強すぎる。瞼を閉じれば、先程目にした鎖骨が浮かび、自然と火照る体に狼狽え頭を振った。

「…―さん、坂田さん」
「…ん、あ…、おお!」
「どうしましたか?具合でも悪くなりましたか…?」

瞼を上げると、心配した表情を浮かべる新八が顔を覗き込んでいた。距離が近いことにまたしても狼狽えてしまう。すると、突然額に手のひらを当てられた。柔らかな手のひらと温もりに胸が甘く締め付けられ苦しくて仕方がない。今までこんな思いをしてきたことがあっただろうか。そう考えながらまたもや頭を横に振って、新八の手首を掴んで引き離した。

「悪ぃ、大丈夫だからよ」
「…よかった」

ほっと安堵した新八の気持ちが伝わり胸の奥が擽られる。高鳴っては締め付けられたりと忙しい心臓に口端を上げ笑う。そんな銀時に新八が不思議そうに首を傾げた。



「そういえば、さ…」
「?」

ふと、胸ポケットに入れていたものを思い出し口を開くと新八が笑う。可愛い表情に見蕩れながらソレを取り出し新八の目前に差し出せば目をまん丸と見開いた。

「これ、あの…ボタンのお礼、になるかわかんねぇけど…」
「え、」
「神楽でも友達でも誘ってさ、」
「え」
「…あ、もしかして、こういうの苦手?」

差し出したソレと銀時を交互に見遣る新八に不安が募り訊ねれば、頭をぶんぶんと横に振る。苦手ではないようで安心すると、キラキラと目を輝かせ嬉しそうに笑った。この笑顔に何度心を鷲掴みにされただろうか。

「水族館、好きです」
「よかった。なら、」
「あの、坂田さん…、一緒に行きませんか?」
「うん……え!?…俺?」

思いもしなかった新八からの誘いに慌ててしまう。
目前の新八は恥ずかしそうに俯いている。突然の嬉しい展開に心が弾むもので。

「あああの、…俺でよかったら」

声が上擦ってしまった。

「あ、ありがとうございます。よかった」

はにかんだ笑顔を浮かべて礼を言う新八に目眩を覚える。チケットを用意した自分を褒めてやりたいぐらいだ。つられて笑い、チケットを一枚手渡そうとしたその時、キキィーと金属音が鳴り響き車体が大きく揺れた。咄嗟に足を踏ん張れば、新八がゆらりと揺れて此方に倒れ込んだ。

「…っごめんなさい、」

慌てて体を離そうとした新八の腕を無意識に引き寄せ抱き締めた。温かな体温と新八の匂いを感じて心臓が早鐘を打つ。

(好きだ…)

想いが溢れ出しそうでぎゅうと力を籠めると、腕の中の新八が小さく呻いた。その声にはっとして体を離す。

「わ、悪ぃ」
「坂田さんやっぱり今日具合が、」

心配そうに顔を覗き込む新八の大きな瞳に引き寄せられるように距離を縮め、赤い唇に唇を重ねた。
柔らかな感触に全身に電流が走ったように痺れた瞬間、我に返り引き剥がした。目前の新八は真っ赤に染まり、何ともいえない表情を浮かべている。その時、扉が開く音が聞こえ、新八が銀時を押し退け慌てて扉へと向かった。

全てがスローモーションにかかったような錯覚を抱いた後、みるみる全身に熱が広がる。先程までの和やかな空気が一変し、渡し損ねたチケットを見遣り項垂れ瞼を閉じた。

「…何してんだよ、」





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