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夏の日









星が輝く夜空の下、カランコロン、下駄の音が心地良く鳴り響く。
今日はかぶき町で夏祭りが開催され、陽気な雰囲気があちらこちらから溢れ出していた。
橙色の光が照らされた屋台がずらりと並び、目移りしては心が踊るものだ。

隣を歩く銀時に視線を移すと、紺色の生地の浴衣を身に纏いとても涼しげだ。そんな銀時は団扇で涼をとりながら大きなあくびをした。

「銀さん、」
「んー」
「浴衣似合ってますよ」

にこりと微笑むと、少し照れたのか咳払いをして誤魔化したようだ。そんな銀時に笑いながら前を歩く神楽と妙に目を遣れば、華やかな浴衣を身に纏い楽しそうに微笑んでいた。神楽が着ている浴衣は、白地に色鮮やかな朝顔が咲きなんとも爽やかで可愛らしい。

「神楽ちゃんも似合ってますよね」
「馬子にも衣装か」

ぽつり呟いた銀時が口を閉ざし暫くしてにやんと笑みを浮かべた。その不気味な表情に少し背筋がぞわりと震える。何事だろうかと不安に思った時、銀時が此方を向いた。

「お前もあんな浴衣着たことあんだろ」
「…!え!?な、な、なに…や、女の子用は…」
「動揺しちゃって可愛いな」

にやんにやんと緩んだ顔を見せる銀時に羞恥心を感じ弱く握った拳をぶつけた。すると、その拳に銀時の大きな手が覆い被さる。

「やっぱりなぁ〜…浴衣見た途端お前の表情かわんだもんよ」
「……小さい頃ですよ、姉上が嫌がる僕に無理矢理…」
「なんかその言い方エロいな」

緩んだ顔をさらに緩ませる銀時に呆れて項垂れると、突然手を引っ張られよろめき銀時に凭れかかってしまった。

「なぁ、今度」
「変態だ」
「ちょ、最後まで言ってねぇのに」
「銀さんの思うことは大体わかります」

どうせ、着てくれだの変な事を言うのだろう。呆れて溜め息を吐くと、銀時が指を絡めてきた。

「銀さん、」
「誰も見てやいねぇよ」

銀時の言うように、擦れ違う人は各々で楽しみ他人には目を向けていない。少し納得して、弱く握り返した。その時、

「銀ちゃーん!新八ー!」

突然神楽に呼ばれ驚いて銀時の手を振り解くと、途端にむくれる銀時に少し笑みが零れる。しかし、此方に向かってくる神楽と妙の後ろに見える人物に新八は頬が引き攣った。

「近藤さん…、」
「おぉ!新八くん!こんなところで会うなんて奇遇だな!」

わざとらしい言葉に乾いた笑いが出てしまう。ちらりと妙を見遣れば、笑った顔が怖くて素早く目をそらした。

「銀ちゃん、新八!これ、ゴリからの奢りネ」

差し出されたものへ視線を遣れば、青色のシロップがかかっているかき氷がひとつ現れた。

「一個だけかよ」
「ちょっと銀さんっ……あの、近藤さんいいんですか?」

受け取りながら訊ねると、男らしく頷いた。けれど、少し青ざめているようにも見える。

「銀ちゃん、これからゴリにまた奢って貰うネ」
「おーマジでか!いやぁ助かるわ〜」
「え、いや…俺はお妙さんだけに」
「神楽、好きなだけ奢って貰えよ!」
「任せるネ!さぁ姉御行くアルよ」

次第に青く染まっていく近藤に心の中で謝り、神楽に手を振った。

「よし、アイツらはゴリラに任せて俺たちも回るか」
「そうですね、なんだか罪悪感でいっぱいなんですが…、近藤さんすみません」

もう一度謝り神楽たちの背中を眺めた後、かき氷に視線を向ける。氷にサクサクとストローを刺して、シロップを浸透させると視線を感じた。

「銀さん食べます?」
「あぁぁーん」
「えっ!」

口を大きく開ける銀時に驚き目を見開く。甘える銀時に呆れつつも胸が高鳴ってしまうもので。そんな自分に溜め息を吐きながらストローを弄っていると、ストローを持つ手を掴まれた。そして、新八の手を使って氷を掬い口に運んだ。

「ごちそうさん、あとお前食べていいわ」
「え、でも銀さん、」

甘味が大好物な銀時が一口で満足するはずがない。不思議に思えば、あちこちの屋台に瞳を輝かせていた。そんな銀時に笑って、かき氷を見遣る。さくりと掬い口の中へと運ぶと、ゆっくりと氷が舌の上で溶けて無くなった。頬を緩めて舌の上に少し残った氷を噛んで再び氷を口にする。広がる甘さと冷たい食感に夢中になって食べていると、目前にいた銀時が消えていた。

「ぎんさん?…銀さん!」

慌てて銀時の名前を呼んで探すが返事もなく、人の波に流されてしまう。かき氷を持つ手のように、全身がひやりと冷えていくようだ。迷子になったと知られたら笑われるだろうか。そう思った瞬間、襟首を掴まれた。吃驚して振り向くと心配した面持ちの銀時が現れ、ほっと安堵する。

「お前なぁ…迷子になんなよな」
「ごめんなさい…、」

呆れたように溜め息を吐く銀時に頭を下げて謝ると頭を撫でられる。少し冷たい手のひらが悪戯するようにぐしゃぐしゃと髪を乱した。そして、ぽんぽんと優しく頭を叩いた銀時が手を差し出す。

「…ん、」
「え?」

不思議に思い首を傾げると手を引っ張られ、体がよろめいた。

「また迷子になったら困んだろ…銀さんが繋いどいてやるわ。離すなよ」
「…、はい」

顔を背けながら言う銀時に小さく笑って手を握り返せば、伝わる体温が熱くて汗が滲む。銀時を見上げると、耳が少し赤く染まっている。照れているのだろうか。ふふと笑みを零した瞬間、急に立ち止まった銀時の背中に顔をぶつけてしまった。

「ったぁ…、」
「新八、欲しいもんあったら言えよ?」
「銀さん買ってくれるんですか?」
「おぉ、」

銀時が人に何かを奢るということが珍しくて痛みを忘れて狼狽える。明日、槍でも降ってくるんじゃないだろうか。そう思い眉を顰めた。

「ほんとに?いいんですか…?」
「あぁ、お前今日主役だしよ」
「え」

銀時の言葉に瞬きを繰り返すと、此方を向き小さく息を吐いた。そして、銀時が新八の頭をゆっくりと撫でて微笑む。

「誕生日おめっとさん」
「……!」

覚えていてくれた事と、お祝いの言葉を貰えた事が嬉しくて涙が浮かんだ。歪む視界に映る銀時が少し慌てたようで鼻を啜って緩んだ顔を見せれば、銀時が可笑しそうに笑った。

「ありがとうございます、銀さん」

思いを伝えると距離を縮めた銀時が額にキスをした。突然のことに慌てると抱き竦められ体が震える。人通りの多い場所でこの様に抱き締められ困惑すれば、銀時が新八を抱き締めたまま歩を進めさらに戸惑いを募らせる。

「ぎんさん…?」

後ろ歩きで進めば次第に賑やかな通りから外れていき辺りが、しんと静まり返った。そして、歩みを止めた銀時が腰に腕を回し、色を滲ませた瞳で見つめる。

「やっと二人っきりになれた」

腰に回った腕が力を増したことにより先程よりも密着して銀時の匂いが鼻腔を擽る。心地がよくて瞼を閉じれば、唇に少しかさついた感触が広がり慌てて瞼を上げた。

「お前、唇青くねぇ?」
「あ、かき氷のシロップですよ。きっと、舌も青……ん、」

あっかんべえをするように舌を出した瞬間、やんわりと噛みつかれてしまった。重なる舌の熱により冷えた口内を溶かされるようだ。夏の暑さよりも、銀時の体温に火照る体に汗がじわりと滲む。優しく口内をなぞる舌に翻弄され頭の中が真っ白に輝いた。




110812
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