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ハニーベイブ









項垂れてパチンコ店から出ると、いつの間にやら街中が茜色に染まっていた。
はぁ、溜め息を吐き軽くなった財布を懐に戻す。そして、銀時は重い足取りで帰路に着いた。



「たでぇま〜」

ガラガラと戸を開け、帰宅したことを知らせる。
普段なら賑やかな声が響き渡っている時間帯だが、今日は様子が違うようで。少し不思議に思い、足元に視線を落とすと新八の草履と神楽の靴がきちんと綺麗に並んでいた。出掛けてはいない、ということだ。

「寝てんのか?」

ブーツを脱ぎ捨てながら独りごちる。ぺたり、と床を踏みしめ静まり返った部屋に向かうと新八の背中が視界に入った。

「あ、おかえりなさい」
「銀ちゃん、しーヨ!」

人差し指を口に当てる神楽と、はにかむ新八に銀時は瞬きを繰り返す。訝しみながら視線を下へと向けると、新八の腕の中で赤ん坊がすやすやと寝息を立てながら眠っていた。

「新八、いつの間に生んだんだよ…、」

俺の子、と続けようと口を開いたが新八の一睨みにより遮られた。

「ばか言わないでくださいよ。子守を頼まれて、今日一日預かることになったんです」
「あぁ、なるほど…」
「可愛いネ」

二人共すっかり赤ん坊の虜になったようだ。
名前や性別など様々な情報を楽しそうに教える神楽に笑みを零した時、泣き叫ぶ声が響いた。驚き目を見開くと、新八の腕の中で赤ん坊が手足をじたばたと動かし涙を流していた。

「起きたのか?」
「そうみたいですね、」
「おーおー。お前ぇ、男は泣くもんじゃねぇよ」
「無茶言わないでくださいよ」

ふふ、と笑う新八に銀時も頬を緩める。そっと、小さな手のひらに人差し指を当てると、ぎゅうと力強く握ってきた。

「銀さん、僕ミルク作ってくるんで抱っこしてて貰えますか?」
「あ?」
「お願いします」
「ちょ、新八っ…!って、おい…」

腕の中に収まる体は柔らかくて、温かい匂いが香った。困惑しながら眺めれば、赤ん坊は大きく口を開き自己主張をする。頬を伝う涙を袖で拭き、ゆらりゆらりと体を揺らすけれど泣きやむ気配は無くて溜め息を吐く。子守唄でも歌えば少しは静かになってくれるのだろうか。そう思った時、台所から哺乳瓶を手にした新八が現れた。

「はいはい、ご飯でちゅよー」
「…お前、赤ちゃん言葉になってんぞ」

ふにゃりと頬を緩める新八に突っ込みを入れるが聞こえなかったようだ。

「銀さん、飲ませてみますか?」
「あ?俺?…いいわ」
「そう言わずに。よしよし、おいで」

腕の中にいる赤ん坊を新八はぎこちない手つきで抱き抱える。柔らかな赤ん坊の代わりにミルクを手渡され渋々と小さな口元に差し出すと、ぱくりと勢い良く吸い付いた。力一杯飲む赤ん坊に感心しながら新八に視線を向けた瞬間、銀時は目を見開く。気付かなかったが、距離が近い。赤ん坊に夢中になりすぎて新八は気付いていないよう。途端に、意識をして心臓が早鐘を打った。
その時、

「そこの二人、夫婦にしか見えないネ」

突然聞こえてきた声に、はっとして神楽を見遣れば、にやにやといやらしく笑っていた。どうやら、一部始終静かに眺めていたようだ。神楽の言葉に新八も驚いたようで顔を上げた時、かちりと視線が重なる。すると、みるみるうちに真っ赤に染まり俯いた。

(か、可愛いじゃねぇか…!)

新八の仕草に悶えてくらりと目眩が起こる。

「夫婦だとさ」
「…、」
「新八、お前お母さんなら母乳出んじゃね?」

にやにやと頬を緩めながら、ぺたりと平らな胸に手を当て囁けば、新八の体が固まった。俯いているため表情は読み取れないが、耳が真っ赤に染まっている。新八の反応に気を良くして、さわさわとやらしく撫で回した時。間近にある新八の頭が顎に勢いよく命中して、目の前が真っ白に輝いた。






「…ん、銀さん、」

瞼を開けると、見慣れた天井とほっと安堵した新八の表情で。慌てて体を起こそうとしたが着物を引っ張られ、はたと動きを止める。ゆっくりと目で辿ると、小さな手がぎゅうと掴んでいたことに気付き、諦めて再び横になった。そして、小さくて柔らかい背中を撫でる。

「銀さんの側が落ち着くみたいで、離れようとしなかったんです」
「あぁ、そう」
「………、あの、銀さん。ごめんなさい」

正座をして体を小さく縮こませた新八が頭を深々と下げた。

「あ、いやでも…あれは、銀さんも悪いです。神楽ちゃんがいる前であんなことするから…その…、」

あたふたと動揺する新八を下から覗き込んで、銀時は口元を綻ばせる。可愛い表情に引き寄せられるよう、手を伸ばし頬を撫でた。

「そうだな、夫婦の営みを子供に見せちゃいけなかったな、」
「〜…、またそうやって変なこと言ってると頭突きしますよ?」

ぽん、と額を軽く叩かれた後、優しく髪を撫でられる。前髪をくるくると巻き上げ遊ぶ新八の指の動きが気持ちよくて銀時は目を細めた。その時、ぐぎゅるるると腹の虫が盛大に鳴り響いてしまい新八が吹き出し笑った。甘い雰囲気が台無しで溜め息を吐く。

「なぁ、腹減ったわ。俺にも飯作って」

新八に擦り寄り見上げれば、きょとんとして瞬きを繰り返す。甘えるように腰に腕を回して少し固い太股に頭を乗せると、新八は仕方ないなぁとはにかんだ。





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