はじめての 厳かに響き渡る鐘の音に耳を澄ませ、年越し蕎麦を食べ終えて後は年が明けるのを待つのみ。 と、炬燵に潜って恒例の歌合戦をのんびりと鑑賞していた。暖かくて心地がよくて、睡魔に誘われそうになってしまう。ぼんやりとテレビを眺めながら欠伸をした時、パチンと澄んだ音が鳴り音のした方へ目を遣ると、 「初詣にいきましょう」 と妙が手のひらを合わせ、花が綻ぶような笑顔で提案した。 途端に嫌そうな顔で唸る銀時に妙は鉄拳をお見舞いする。そして、有無を言わさない雰囲気の中、渋々と炬燵から出たのだった。 「さみぃーよ。めんどくせぇよ」 「年が明けてから文句しか言ってませんね」 「だってよー」 ぶつくさと文句を並べる銀時に呆れてしまう。そんな銀時に目を遣ると肩を竦め、鼻の頭を赤く染めていた。ぴりりと冷たい風が頬を掠めて、新八も銀時と同じように背中を丸め小さくなる。そして、マフラーに口元を埋めて息を吐くと世界が白く染まった。 「お前、それ前見えてんの?」 覗き込んできた銀時に驚き、目を見開くと眼鏡のレンズを人差し指で押されてしまった。 「ちょっ、指紋付いたじゃないですか…!」 「指紋ぐらいで文句言うなよ」 「銀さんに言われたくないですっ!」 訝しんで眼鏡を外し、半纏の袖で拭い綺麗にする。そして、再び掛け直し銀時を見遣れば、視線が重なった。じっと此方を見て眉根を寄せ何やら考えた後、にやんといやらしく微笑む。その企んだ笑みに新八は口端をひくりと上げた。 「眼鏡外したお前を見たらやらしいお前を」 「わぁぁぁぁー!」 嫌な予感が的中し慌てて銀時の口を押さえると、前を歩いている神楽と妙がくるりと振り返った。にこにこと微笑む妙から殺気が滲み出ていて、顔が引きつり思わず銀時を盾にして隠れる。 広い背中に手を置き、肩越しに前を歩く女子二人を眺めれば楽しそうに話をしていた。その様子に、ほっと胸を撫で下ろし深く息を吐く。 「もう、バカなこと言わないでくださいよ」 「本当のことだからしょーがねぇよ。お前のせいでやらしい気持ちになってきた」 銀時の言葉に呆れて溜め息を吐いた瞬間、突然銀時が立ち止まり顔面を打った。 「ったー…、銀さん急に止まら、」 ないで、と続ける言葉を飲み込み目の前に広がる光景に驚愕する。 普段は閑散とした神社だが、今日は違う。参拝客の多さに感嘆をあげていると、銀時が隣に並んだ。不思議に思い、見上げれば小さく微笑む。 「新八、ほら」 「……え?」 「お前迷子になりそうだから、」 手を差し出してくる銀時に瞬きを繰り返し、大きな手のひらと銀時とを交互に見合わせる。この手のひらに、重ねてもいいのだろうか。しかし、此処は外。手を繋ぐことに躊躇い暫し考えていると、手のひらが引っ込み視界から消えた。慌てて探した瞬間、右手を掴まれて引き寄せられ目を大きく見開く。 「人多いから、繋いでるなんてわかんねぇよ」 手のひらを重ねて、にやんと笑みを浮かべる銀時に新八は狼狽えた。伝わる熱に溶けてしまいそうだ。人混みを利用してぎゅうぎゅうに密着する銀時から、顔を隠すように俯く。その時、耳に息を吹きかけられ肌がぞわりと粟立った。 「新八、」 「……は、はい」 「今年もよろしくお願いします」 耳元で新年の挨拶を色を含んだ声で囁かれ、体温が上昇する。ふらりと軽く目眩を起こすと、にまにまと頬を緩ませ笑う銀時につられて笑みを零した。 「こちらこそ、よろしくお願いします」 HAPPY NEW YEAR! 100101 |