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愛くるしい









冷たくさらりと乾いた畳が背中を刺激する。目の前には、焦燥の色が滲む銀時の顔に、染みの付いた天井。組み敷かれた体は微動だにもしない。

「ぎ、んさん…」

掠れた声で名前を呼ぶと銀時は口端をひくりと上げて笑った。

「男は狼なのよって誰かが言ってたろう」
「…え、」
「気を付けろって言ってんだ」

低く唸る声に体が固まり、萎縮する。肌蹴た着物から、捲られた袴から肌が露わになる。いつになく性急な銀時にひくっと喉が鳴った。
首筋から鎖骨へと熱くぬるりと舌が這い、犬歯が柔く刺さる。与えられる愛撫にぞわりと背筋が震え吐息が漏れてしまう。

「…新八、」

熱を帯びた瞳はどこか寂しさも滲ませる。その瞳が真っ直ぐ見つめて離してくれない。力の入らない手で胸を押し、小さく抵抗をすると太股に食い込む指が力を増した。
覆い被さる銀時から伝わる体温と鼓動の速さに新八は目眩が起こる。肌を貪る唇が熱くて溶けてしまいそう。蕩けてしまう思考の中、目を瞑り銀時の様子が変わった時を思い返す。


普段と変わらず買い物を済ませ、少し寄り道をした。橋の下を流れる川のせせらぎを耳にし、キラキラと太陽の光を反射する水面を眺めていた。
その時、突然肩に手を置かれ、驚いて振り向くと其処には黒の隊服を身に纏う土方が立っていた。新八の反応が面白かったのか、くくと笑う。
銀時や神楽と一緒にいる時は必ず睨み合いから始まり、口喧嘩をした後、戦闘態勢に入る。けれど、今は新八のみ。
土方は新八にぶっきら棒ながら優しく接してくれる。穏やかな気持ちで話すことは珍しい。それが嬉しくて世間話をして笑っていた処に、偶然現れた銀時が眉間に皺を寄せ威嚇した。
瞬時にぴりりと空気が張り詰め、新八は慌てて銀時を制止する。苛立つ銀時を宥め土方に謝ると、無言のまま腕を引っ張られその場から離されてしまった。

ゆったりと思い出し、瞼を上げて小さく名を呼ぶと拗ねた顔が見下ろした。まったく、この人は。

「……やきもち、」
「そうだよ!わりぃかよ」

荒い愛撫が止まり、素直に告げる銀時にほっと安堵する。
眉間に皺の寄る銀時に手を差し伸べ頬を撫でると、大きな手のひらが包み込んだ。そして、温もりを感じるように銀時は瞼を閉じる。

「お前が、大串君と楽しそうに話してんの見たら腹が立っちまってよ」

しょぼんと項垂れる銀時に溜め息を吐き、新八は頬を緩めた。いい大人が妬くだなんて。こそばゆい気持ちが溢れてくる。

「銀さん、」
「……はい」
「狼が目の前に」
「…俺のことですよね。ほんとに、悪かった」

覆い被さる体を離し、大人しく正座をして反省する銀時は、狼というより耳と尻尾が垂れた犬のようで。そんな銀時が愛しくて、胸の奥がじんわり温かくなり微笑んだ。
畳の跡が付いた腕を擦り体を起こし、肌を隠すように着物を手繰り寄せる。そして、銀時と向き合い新八も同じように正座をし、膝の上に置いた銀時の手をそっと撫でた。

「土方さんとは、ちょっと立ち話をしてただけです。銀さんが思うような変なことはありませんから、」
「…はい」
「もうちょっと自信持ってくださいよ。僕は銀さんのことが、……すすす、す、すー…」

新八の言葉を静かに待つ銀時は眉尻を下げてにやにやと笑む。恥ずかしくて、爆発しそうだ。堪らずきゅっと唇を噛み締め、言葉を飲み込んだ。

「あ!新八ずりぃ!言えよ、ほら」
「……す、す酢昆布買うの忘れちゃった、なぁなんて」
「新八、」

目を逸らし誤魔化して笑うとやんわりと抱き締められ再び畳の上に押し倒されてしまった。覆い被さる銀時の見下ろす幸せそうな笑顔。

「聞かせて、この口で。そうしねぇと、俺自信持てねぇわ」

唇を撫でる指先が擽る。導かれるように口を開くと舌を撫でて愛撫する。その愛しい指を甘く噛めば見つめる瞳に色が増した。

「…好き、ですよ」





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