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渇き






どこまでも広がる青い空に輝く太陽。
騒がしく蝉の声が鳴り響くかぶき町に、また暑い暑い夏がやってきてしまった。


万事屋はいつものように三人と一匹が各々好きなようにバテていた。クーラーがない万事屋の夏は、扇風機が大活躍する。だが、扇風機の前を陣取るのは一人二十分と時間が決まっていた。今は神楽がそよそよと気持ちよさそうに吹かれているところだ。
しかし、暑すぎる。
窓枠にぶら下げている風鈴はちりんとも鳴らない。向かいのソファでグッタリとしている新八に目をやると、唸りながら団扇で自分を扇いでいた。


(あぁー喉渇いた…)
「新八ー茶ぁくれぇ〜」
「…ご自分でどうぞ」
「銀さん動けねぇよー」
「僕も動きたくないですよ…」

返ってくるダルそうな声に銀時はちぇーと言いながらしぶしぶ立ち上がった。台所に行き冷蔵庫の前に立つ。ガコン、と冷蔵庫の戸を開けると冷風が体の温度を少し下げた。イチゴ牛乳は、今は止めとこう。彷徨えた手を冷えた麦茶に向けた。
コップに並々についだ麦茶を豪快に飲み干し、喉を潤わせる。

「プッハァー!生き返るぜこんちきしょォォオ」

一息ついていると、銀さーんと呼ぶ声が聞こえてくる。

「僕と神楽ちゃんの分もお願いしまーす」

新八の声にはいはいと返事をした。サービスで氷でも入れてやろうか。二つコップを用意し、冷凍室の戸を開ける。氷を三つずつコップへいれ、最後に自分の口に一つ放りこんだ。
麦茶を注ぐとカラン、と涼しげな音を奏でる。


「ん、」
「わぁ、ありがとうございます!」
「やればできる子ね銀ちゃん!」
「おひゃぇ、」

お前は礼も言えんのかと言いたかったが氷が口に入っていてうまく喋れない。神楽の表情が人を小馬鹿にしているようだ。悔しくて新八の後ろに立つと、不意に白く細い首に目がいった。そこを一筋の汗が。着物と首の隙間に流れていった。その瞬間、思考が止まる。目が離せないでいると新八が振り向いた。

「どうかしました?」
「ん、あ、…」

なんでもない、と首を振る。
こんな昼間から発情したら呆れられること間違いない。けれど、一度やらしいことが頭をよぎると離れてくれないのが事実であって。頭が暑さも兼ね合って茹で上がったよう。氷が口の中で溶け、また喉が渇いてカラカラだ。

「新ちゃん、一口」
「えぇーやですよ」
「いいから、ほら。ちょっとだけだから」
「…ちょっとだけですよ?」

疑いながらもはいと手渡す新八の手にわざと触れ受け取った。そして、冷えた麦茶を喉に通し氷を一ついただく。

「あぁっ!氷…、」

口の中の氷を見せつけると拗ねた顔で見あげる。大事に取ってたのに…、と小さく呟く新八は銀時に背中を向けた。そんな顔を見せられるとふつふつと熱が増すではないか。

(…やっべぇーよ。)
舌でコロコロと転がす氷。
目先には白いうなじ。
神楽は、扇風機に夢中だ。
銀時はゆっくりと近づき、新八のうなじに口付けた。途端、小さく悲鳴を上げビクリと体が跳ね上がる。肩に手を置き押さえつけて氷を滑らせた。
新八と銀時の間にある氷は次第に二人の熱で溶けてゆく。じゅるっと濡れた音が情欲を煽り、しょっぱい新八の味が、喉の渇きを倍増させた。銀時は唇を離し、小さくなった氷を新八の着物と首の間に落とした。

「ひわっ!」
「ん、卑猥?」
「…何するんですか!」
「いやぁ〜新八が暑そうだったから、つい」
「だからってこんな!ひ、濡れちゃう」
「…新ちゃんやらしい」
「アンタの頭がなァァ!」

奥まで転がり落ちた氷を慌てて取りだそうと、新八はその場で跳ねる。その姿を見て銀時は手を差し出した。

「取ってやるよ」
「遠慮します」
「そう言わずにさ、」

新八の背中に手を這わす。個体に触れると、ぎゃあと悲鳴が上がった。反応が面白くてコロコロと手のひらで転がし遊ぶ。すると、徐々に着物がしっとりと冷たく濡れてきた。

「ほら、濡れてる」
「やめてくださいよっ!」

嫌がる新八にニヤニヤと笑みを浮かべると突然後ろからゴォ、と強風が吹きつけた。何事かと思い、振り向いた瞬間、目の前に扇風機が現れ驚く。強風に目が乾いてしまう。風からよけると神楽が仁王立ちをしていた。

「暑苦しいアル。天パにメガネ」
「っ、銀さんのせいだ」
「俺じゃねぇよ。暑そうにしてたお前のせいだよ」
「どっちでもいいネ。罰として20分ずつ扇風機私に譲るアル」

勝ち誇った神楽の表情に恨めしそうな新八の視線。銀時は渇いた笑みを浮かべた。


「いやーあッちぃなあぁ…」




080730
暑中お見舞いでした:)





あきゅろす。
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