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ピンポーン

軽く安っぽいけれど、今か今かと待ち詫びていた音が部屋に鳴り響いた。途端に銀八は口元を緩め玄関へと向かう。そして、にやける顔を抑えて、冷静さを装いながらドアを開けた。

「来ちゃった、でさァ」

目の前に現れた人物は、新八では無く予想もしていなかった沖田で。一人で来るはずだった新八は沖田の後ろに隠れ、気まずそうに顔を歪めた。今の状況を把握出来ない銀八は混乱し口をぽかんと開ける。

「は…?」
「お邪魔しやーす」

暫し固まっている間に沖田がドアを開き中に入ろうとする。その瞬間、我に返り慌てて制止した。

「え?ちょ、待て待てなにしてんだよ」
「いや、近くに来たんで遊びにきやした」
「はァ?」

にやにやと笑みを浮かべる沖田に頭を抱えて項垂れる。少し冷静にでもなろうか。そう思い、こほんと咳払いを一つ。そして、サンダルを履き外に出てドアを閉めた。ちらりと新八を見やれば、視線を逸らし泳がせる。

(…あぁ〜ったく、)

溜め息を吐いて沖田から離れ新八の肩に手を置き、目配せをすると素直に此方に歩み寄る。部屋の前から少し離れた場所で沖田に背中を向け、新八の耳に口を寄せた。

「志村」
「はい…」
「…なに、あれ?」

沖田を指さし小声で問い質せば、申し訳なさそうに眉を下げた。

「…すみません。道でばったり会って、そしたら沖田さんが、ここら辺に先生のうちがあるから行こうって…」
「で、来たということか」

なるほど、と納得して頷けば後ろからドアが開く音が聞こえた。慌てて振り向けば、沖田が興味津々に部屋を覗いて笑う。

「あんた見かけによらず綺麗好きなんですねィ」
「あぁ?なんだよ見かけによらずって。…つか、マジ帰ってくんねえ?」

沖田を部屋の前から離し、ドアをバタンと閉める。そして、また勝手に開けないようにとドアに寄り掛かり、頭を掻いた。

「部屋掃除して恋人でも待ってたんですかィ?」
「…、」
「あぁ、そうだよ!」
(来てるよ今目の前にっ!)

イライラとして叫べば、新八がびくりと肩を揺らした。そして、見る見るうちに頬を真っ赤に染める。そんな可愛い恋人が目の前にいるのに、抱き寄せることも出来ないことに不甲斐なさを感じる。力無く沖田を見やれば、にやりと笑みを浮かべ面白がっていた。

「へェ、」
「だから、早く帰れ」

人差し指で少しずれた眼鏡を上げて、沖田を睨み付ける。無言の圧力を掛けるが効果がないようで沖田は尚も面白がる。すると、突然パチンと手のひらを合わせた音が響いた。

「おおお沖田さん、帰りましょう。先生の邪魔しちゃう」
「へ?」

新八の提案に、動揺して思わず声が上擦る。

「んー、…新八が言うならそうするでさァ。んで、今から新八んち行って遊びやしょう」
「え、」
「え、…志村、お前今日用事あるんじゃなかったか?」
「え、なんでせんせぇーが知ってるんでさァ」

全く予想していなかった流れに慌ててしまう。心臓がバクバクと速まり、挙動がおかしくなる。沖田の視線から逃げるよう、俯き額を押さえて小さく口を開いた。

「いや、昨日ちょっと小耳に挟んだっつうか…」
「へェ」

相槌が痛い。視線も痛い。冷や汗が滲み出て参ってしまう。

(頼むから志村置いて帰ってくれ…)

顔を上げ、引きつる笑みを浮かべれば、ぱちと新八と視線が重なった。瞬きを繰り返す新八に首を傾げると、新八が沖田に向き直った。

「あ、その…、沖田さんっ!僕、用事なくなったんで、行きましょう」
「え!」
「マジですかい。じゃあ、今日は新八と仲良く遊ぶんで、大人しく失礼します。せんせぇーは恋人と仲良くしてくだせェ。んじゃ、さよーならァ」

嬉々として新八の腕を握りしめ潔く去る沖田に銀八は愕然とする。カンカン、と音を上げて錆びた階段を降りていく二人の姿に銀八は狼狽えた。

「…ちょ、マジかよ」



先生不憫すぎる…笑



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