21 ピンポーン 軽く安っぽいけれど、今か今かと待ち詫びていた音が部屋に鳴り響いた。途端に銀八は口元を緩め玄関へと向かう。そして、にやける顔を抑えて、冷静さを装いながらドアを開けた。 「来ちゃった、でさァ」 目の前に現れた人物は、新八では無く予想もしていなかった沖田で。一人で来るはずだった新八は沖田の後ろに隠れ、気まずそうに顔を歪めた。今の状況を把握出来ない銀八は混乱し口をぽかんと開ける。 「は…?」 「お邪魔しやーす」 暫し固まっている間に沖田がドアを開き中に入ろうとする。その瞬間、我に返り慌てて制止した。 「え?ちょ、待て待てなにしてんだよ」 「いや、近くに来たんで遊びにきやした」 「はァ?」 にやにやと笑みを浮かべる沖田に頭を抱えて項垂れる。少し冷静にでもなろうか。そう思い、こほんと咳払いを一つ。そして、サンダルを履き外に出てドアを閉めた。ちらりと新八を見やれば、視線を逸らし泳がせる。 (…あぁ〜ったく、) 溜め息を吐いて沖田から離れ新八の肩に手を置き、目配せをすると素直に此方に歩み寄る。部屋の前から少し離れた場所で沖田に背中を向け、新八の耳に口を寄せた。 「志村」 「はい…」 「…なに、あれ?」 沖田を指さし小声で問い質せば、申し訳なさそうに眉を下げた。 「…すみません。道でばったり会って、そしたら沖田さんが、ここら辺に先生のうちがあるから行こうって…」 「で、来たということか」 なるほど、と納得して頷けば後ろからドアが開く音が聞こえた。慌てて振り向けば、沖田が興味津々に部屋を覗いて笑う。 「あんた見かけによらず綺麗好きなんですねィ」 「あぁ?なんだよ見かけによらずって。…つか、マジ帰ってくんねえ?」 沖田を部屋の前から離し、ドアをバタンと閉める。そして、また勝手に開けないようにとドアに寄り掛かり、頭を掻いた。 「部屋掃除して恋人でも待ってたんですかィ?」 「…、」 「あぁ、そうだよ!」 (来てるよ今目の前にっ!) イライラとして叫べば、新八がびくりと肩を揺らした。そして、見る見るうちに頬を真っ赤に染める。そんな可愛い恋人が目の前にいるのに、抱き寄せることも出来ないことに不甲斐なさを感じる。力無く沖田を見やれば、にやりと笑みを浮かべ面白がっていた。 「へェ、」 「だから、早く帰れ」 人差し指で少しずれた眼鏡を上げて、沖田を睨み付ける。無言の圧力を掛けるが効果がないようで沖田は尚も面白がる。すると、突然パチンと手のひらを合わせた音が響いた。 「おおお沖田さん、帰りましょう。先生の邪魔しちゃう」 「へ?」 新八の提案に、動揺して思わず声が上擦る。 「んー、…新八が言うならそうするでさァ。んで、今から新八んち行って遊びやしょう」 「え、」 「え、…志村、お前今日用事あるんじゃなかったか?」 「え、なんでせんせぇーが知ってるんでさァ」 全く予想していなかった流れに慌ててしまう。心臓がバクバクと速まり、挙動がおかしくなる。沖田の視線から逃げるよう、俯き額を押さえて小さく口を開いた。 「いや、昨日ちょっと小耳に挟んだっつうか…」 「へェ」 相槌が痛い。視線も痛い。冷や汗が滲み出て参ってしまう。 (頼むから志村置いて帰ってくれ…) 顔を上げ、引きつる笑みを浮かべれば、ぱちと新八と視線が重なった。瞬きを繰り返す新八に首を傾げると、新八が沖田に向き直った。 「あ、その…、沖田さんっ!僕、用事なくなったんで、行きましょう」 「え!」 「マジですかい。じゃあ、今日は新八と仲良く遊ぶんで、大人しく失礼します。せんせぇーは恋人と仲良くしてくだせェ。んじゃ、さよーならァ」 嬉々として新八の腕を握りしめ潔く去る沖田に銀八は愕然とする。カンカン、と音を上げて錆びた階段を降りていく二人の姿に銀八は狼狽えた。 「…ちょ、マジかよ」 先生不憫すぎる…笑 |