見えるもの 視界がぼやける中、朱色の髪の少女がバタバタと部屋を跳ね回る。 その白い手に新八の命、メガネを持って。 「ほーらダメガネェこれがほしいアルかぁ?」 「ちょ、神楽ちゃん返して」 「メガネがないと何も見えないアルか?」 「そうだよ、だからっ」 身軽に跳ねる神楽に新八はクタクタになりながらも追いかける。 昼寝なんかした罰だろうか。いつも通りに掃除をし、いつも通りに昼食を食べた。そして、いつも通りに片付けをしたあと、二人が座る向かいのソファに腰をかけた。目を閉じると睡魔が襲ってきたのだった。すぐに眠りにつき、目を開けた時には世界がぼやけていた。 「ふふふん、返してほしくば酢昆布一年分買ってこいアルよ」 「そんなの無理だよ!あ、銀さん助けてくださいよー」 厠から出てきたダルそうな銀時に助けを求める。瞬間、ニヤニヤと嫌な笑みがぼんやりと見えた。 「神楽ーダメだろぅ〜俺に渡せぇ」 「はいヨー!」 「え、ちょっ!」 敬礼をしながら神楽が銀時にメガネを渡す。また何かのドラマの影響だろうか。 メガネを手にした銀時はまたニヤンと微笑み、腕を天高くあげた。 そして、 「ほーらほーら」 楽しそうに遊びだしたのだ。 「返してくださいよっ」 「やだね」 「ぎんさん!」 10センチもある身長差。腕を高く上げられたら届くはずがない。けれど、命を取り戻すため新八は背伸びをして挑む。自然と体が銀時と重なっていることにも気付かずに。 「も、いじわるしないでください」 「………新ちゃん、これ欲しいの?」 「欲しいですっ!」 天高くプラプラとメガネを弄ぶ銀時にイラつき始めた時、執拗に尋ねてきた。 「そんなに欲しいの?」「ほしいです、」 「早く?」 「はやくっ」 「我慢できない?」 「できないですっ」 視界がぼやけて銀時の表情を読み取れない。ただ、様子がおかしいことには気が付いた。うーんと唸る銀時が動きを止める。 「新八、銀さんおかしくなりそう」 「へ?」 (って、銀さん近い…) メガネに一点集中していた為、こんなに密着していたなんて。意識をすると途端にカァッと頬が熱くなっていくのを感じ取った。 新八は背伸びをやめ、ゆっくりと一歩後ろへ下がった。けれど、すぐに銀時の太い腕が新八の腰に回り距離を引き戻した。 「逃げんなよ。メガネまだ俺のものになってんぞ」 「や、なんか、ぼやけた世界もいいかなぁって」 「ほぉー。そうかそうか。じゃ、これは定春に」 「あ!やめっ…てくだ、さい」 「ほんとわかりやすいよなぁ。うんうん可愛いねぇ新ちゃん」 力強く抱きしめられ、スリスリと銀時は頬を新八の頭に擦り付ける。 「かか、神楽ちゃん、助け、てっ…?って、いない?!え、いつから?!」 「メガネ渡してすぐ定春と散歩いったけど?新八お前メガネしか見えてなかったのか。ほんとダメガネだな。仕方ない返してやるよ」 銀時は直接新八の顔にメガネを戻した。すると、一瞬にして世界がクリアになる。安心していると、目の前に銀時の顔が現れた。驚き目を見開いた瞬間、唇にやんわりとキスをされた。 カチリとなるメガネ。 「やっぱ没収ー」 唇を離しそう言うと銀時は新八のメガネを素早く取った。そして、唇も奪われてしまった。 |