B
「秀護ー、着替え持ってきたぞ」
「あぁ、サンキュ」
着替えと濡らしたタオルを手渡しているとノックが響いた。
「具合どう?」
「充?」
ドアの隙間から現れた会長を見て、秀護が怪訝な顔をする。
「薬持ってきてくれたんだ」
俺が説明すると、秀護が渋面をつくってこちらを見た。
「寝てれば治るっつったろ」
「全然熱下がってねぇだろ」
ひたりと秀護の額に掌を押し当てる。
じわりと伝わってくる熱はまだまだ熱いままだ。
「あまり冬真くんに心配かけるのはよくないと思うけど?」
ベッド横までやってきた会長が市販の解熱剤を差し出す。
「喉とか痛くないか?」
「身体が少し怠いだけだ」
秀護が薬を受け取らないので俺が受け取る。
総合薬らしく、頭痛や吐き気なんかも治してくれるみたいだ。
「何か食べた?」
今度は俺に尋ねてきた会長に頷く。
「さっきお粥を無理矢理」
「そう。じゃあその薬飲ませちゃっていいよ。食後じゃないと効かないやつだから」
こくりと頷いていると秀護が口を挟んできた。
「用が終わったのならさっさと帰れ」
「秀護!」
せっかくわざわざ薬を持ってきてくれたのにコイツは…
「いいよ、冬真くん。俺も移されちゃ嫌だし。冬真くんも移ると困るし、俺の部屋くる?」
「えっ」
「泊まってもいいよ」と悪戯っぽく笑う会長に戸惑う。
移るうんぬんより心配で放っておけないし…
言葉に窮していると、低くて鋭い声が耳に届いた。
「充…」
声の主を見ると、目を眇めて会長を見据えていて。
「それが嫌なら薬飲んで早く治せよ。じゃあまた何かあったら電話して、冬真くん」
ひらりと手を振って踵を返す会長を玄関まで送ろうと足を踏み出すと腰を抱き寄せられた。
「ちょ…秀護っ」
「放っとけ」
「何言って…」
「ここでいいよ、冬真くん。じゃあね」
ニコリと笑って会長が出ていく。
それを見送ってから秀護に目を戻す。
「お前なぁ、お礼くらい言えよ」
「必要ねぇ」
着替えを身につけていく秀護を見ながら溜め息を零す。
ホントしょうがねぇな奴だな…
まぁそれはともかく。
「ほら、薬。2錠だってさ」
箱からパッケージを取り出し、2錠分を切り離してミネラルウォーターと共に差し出した。
嫌そうに顔を歪める秀護に告げる。
「飲まねぇと会長の所に泊まりにいくぞ」
先ほど嫌そうだったからこれなら言う事をきくかと一か八かで告げてみるが、当たりだったようだ。
眉間の皺を深くして渋々といった感じで薬を受け取ると、パッケージから錠剤を押し出し口に含む。それをミネラルウォーターで流し込み、喉が上下したのを確認した。
「ったく、最初からそうやって素直に飲めよな」
ガサガサと薬等を片付けると、秀護をベッドに押しつける。
「よし、寝ろ!これで熱下がるから」
布団を掛けてポンポンと叩く。
秀護はというと、もう諦めたのか俺の言いなりになっている。
寝たまま俺に目を向け、手を伸ばし首裏に回すと引き寄せられた。
「へ?」
秀護の上に倒れ込むと同時に重なる唇。
慌てて離れると、首裏の手も離れた。
「おやすみ」
クスッと笑って目を閉じる秀護。
呆気にとられた俺はしばらく立ち尽くしていたが、秀護の寝息が聞こえてきて、ぺたりとその場に座り込んだ。
ベッドに顎を乗せ、眠る秀護を見つめる。
(今度こそちゃんと寝たみたいだな)
ほっとして息を吐くと瞼が重くなってきた。
(これで少しでも熱が下がってくれるといいけど…)
ベッドにもたれて「少しだけ」と意識を手放した。
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