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なんでコイツはこんなにワガママなんだ…


目の前で顔を背ける秀護に、今日何度目かの溜め息を吐く。


インターホンが鳴り、ごねる秀護を無理矢理退かせ食事を受け取って寝室へ持ってくると、食べないと言い出したのだ。

「秀護」

「あとで食うからダイニングにでも置いとけ」

「あとで食うなら今食え」

埒が明かなくなり、サイドチェストにお粥の乗った盆を置くとベッドへ乗り上がった。

「秀ー護っ大人しく食え」

上体を枕にもたせながら座る秀護の顔を覗き込む。
あまり良くない顔色。

「食わないなら会長に医者呼んでもらうぞ」

途端に渋面になる秀護。

お粥の器とれんげを手に取ると、秀護に差し出す。
しかし、お粥を見つめるだけで受け取ろうとしない。

「…はぁ」

溜め息を吐くと、一口分お粥を掬い、息を吹きかけ冷ましてから秀護の口元へ持っていく。

「ほら、あーん」

目を丸くする秀護に更に近付けると、小さく口が開いたので、そこにれんげを押し込む。

「ったく、手のかかる奴だな」

全て食べさせ、器を片付ける。
ベッドを降りようと秀護に背中を向けると、腹に腕を回され引き寄せられた。

「わっ何だよ?!」

ぎゅっと背後から抱きしめられ、足の間におさまる。
首を捻って後ろを向くと顔に影が落ちてきて

「んっ」

重なる唇。
焦点のあわない視界。

一瞬何が起きたのかわからなくて目を見開いたまま固まっていると、ねっとりと唇に舌を這わされ、キスされているのだと気付く。

「んんっ…んーっ」

顔を逸らす前に顎を掴まれ、ぬるりと舌が口内に侵入してきて暴れ回る。
熱のせいか舌が熱い。
絡められた舌がその熱に溶けてしまいそうで、秀護の腕にしがみつく。

「ぁふ…、ん…んぅ」

クチュ、と響く水音が鼓膜を震わす。

唇に吸いついてからようやく離され、大きく息を吸い込む。

「はふっは、はぁっ」

秀護の胸にもたれかかって息を整える。

「なにすんだバカ」

身体の横にある秀護の足をバシリと叩く。

「ほら、手離せ。俺、自分のメシ食ってねんだから」

「こっちに持ってきてここで食えばいい」

「なんでだよ。つーか食ったんだから寝ろよ」

腹に回っている腕を外そうともがけばもがくほど強く抱きしめてくる。
しょうがねぇなぁ…

「わかった。食ったら戻ってくるから。寝てろよ。な?」

身体を捻って見上げる。
不満げに眉を寄せるが、なんとか宥めすかし、納得させた。


リビングに戻ると自分の食事をしてから携帯を取り出した。
短縮ダイヤルを呼び出して通話ボタンを押す。

『はい』

「あ、会長ですか?」

『うん。どうしたの?』

「あの、実は秀護、熱出して寝込んでまして」

『そうなの?医者には診せた?』

「あー、それがどうにも嫌がりまして…」

『あはは、だろうね』

「いや、笑い事じゃないんですって」

おかしそうに笑う会長にぐったりしてしまう。
ホントに笑い事ではない。

「それで、どこかで風邪薬って手に入らないかと思いまして」

『わかった。薬持ってそっち行くから。他に何かいる?』

「いえ、薬だけで大丈夫だと思います」

『ん、わかった。じゃ今から行くから』

「はい、お願いします」

通話を切ると携帯をソファへ放り、寝室へ向かう。


「寝てろっつったじゃん。何してんの」

上半身裸でベッドに座る秀護を認め、怪訝な顔をする。

「汗かいて気持ち悪いんだよ」

「じゃあ濡らしたタオルと着替え持ってくるからじっとしてろよ」

念を押して踵を返す。


必要な物を用意して、寝室へ戻ろうとしたところでインターホンが鳴った。

「はーい」

「こんにちは」

扉を開けると会長が立っており、部屋へ招き入れる。

「わざわざすいません」

「いーよ。具合どう?」

「昼前に計ったら38.8℃だったんですけど、下がってないっぽくて…」

顔を曇らせると、ぽんぽんと頭を軽く叩かれた。

「大丈夫だよ。すぐよくなるって」

「…はい」

優しく微笑まれ、弱くだけど笑い返す。




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あきゅろす。
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