@ パタパタと室内に慌ただしい足音が響く。 「えーっと、次は…」 冷蔵庫に残っていた冷え冷えシートはすでに貼った。 ミネラルウォーターのペットボトルもサイドチェスの上に置いた。 「医者はどうしよう…」 おそらく会長に相談すれば部屋に呼んでくれるだろう。 だけど本人がなぁ… 「あ?いらねぇ」 あぁ、やっぱり… 寝室に戻って本人に聞いてみると、そんな返事。 「でも熱あるし、呼んだ方がいいって」 「寝てりゃ治る」 「お前なぁ…」 呆れて大きく溜め息を吐く。 今日は休日という事もあって遅くまで寝ていた。 ふと目が覚めると俺を包むものが温かい、というよりは熱くて、訝しく思い、俺を抱きしめて眠る秀護を揺り起こした。 嫌がる秀護に以前会長が持ってきてくれた体温計を押しつけて計らせてみると 38.8℃ 絶句する俺からバツが悪そうに顔を背ける秀護。 どうやらここ2,3日無理をしていたようだ。 問い詰めてみると、『大丈夫だと思った』と答えやがったので、枕で殴った。 大丈夫じゃねぇからこうやって熱出てんじゃねぇか! それから無理矢理ベッドに押さえつけ、わたわたと看病してるというわけ。 「お粥頼むから、ちゃんと食えよ!」 ビシッと指差して命じると、嫌そうに眉を顰める。 「寝てっからお前だけなにか食え」 「文句言うなら熱いまま口に詰め込むぞ」 「‥‥‥‥」 目を眇めて言うと、口を閉ざして寝返りを打った。 これは了解したととっていいのかな? 「大人しく寝てろよ!」 強めに言い渡してリビングへ向かう。 メニューを開き、自分の分と秀護のお粥を注文すると、冷え冷えシートを代えるために冷蔵庫を開ける。 なんでしんどいならしんどいって言ってくれないんだろう。俺にはなんでも言えって言うクセに、自分は何も言わねぇんだから。 俺はそんなに頼りないかな… 冷え冷えシートを手に寝室へ戻る。 目を閉じて眠る秀護の額には何もない。 (あぁ、また勝手に剥がしやがって) 額に何かが貼りついているのが気持ち悪いらしく、すぐ剥がしてしまうのだ。 そろりとベッドへ上がり枕元に座ると、前髪を流し、冷え冷えシートを貼りつける。 前髪を適当に整えてやると、ぎゅっとその手首を掴まれた。 「秀護?起こした?」 「いや起きてた」 ゆっくり瞼を上げてこちらを見る。 その緩慢な動きが体調の悪さを物語っていた。 「大丈夫か?あと、シートを剥がすなよ」 掴まれていない方の手で冷え冷えシートの上から額に触れる。 「気持ち悪いんだよ、コレ」 もぞもぞと動く秀護を見下ろしていたが、次の瞬間身体が固まる。 「な、なにして…」 「あー、この方がよく眠れそうだ」 いやいやいや、ンなわけないだろ! 俺の膝に頭を乗せ、機嫌良さそうに目を閉じる秀護。 男の膝枕なんか、寝にくくてしょうがないだろ?! 柔らかいわけじゃないし、骨張ってるだろうし。 「秀護っ降りろって!」 「これぐらいいいだろうが」 ごろりと寝返りを打って横向きになる秀護に、途方に暮れる。 え〜…俺、どうすりゃいいの? 剥がれそうな冷え冷えシートを軽く押さえて、ちらりと時計を見る。 ルームサービスが届くまでは、あと15分〜20分といったところだろうか。 膝枕は恥ずかしいが、それまでならガマンしてやろう。 身体から力を抜くと、瞼を閉じている秀護を見下ろした。 [次#] [戻る] |