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中人日乱
3


匂い立つような女の色香に思わずごくりと喉が鳴りかけた…のを、果たして松本に気取られたのか。
「俺の霊圧を少しここに残したから、然程腫れるようなこともねえだろ」
無意味な治療に終止符を打ち、視線は尚も襟から覗く白い乳房の突起に据えたまま、冷た過ぎねえか?と囁くように問い掛けたなら、真っ赤な顔をした松本が、倍速の速さで以って首を縦にコクコクと振った。
それからそっと合わされる襟。
乱れた裾までをもスッと正した松本に、思わず眇めてしまった瞳。
「あああありがとうございます、たいちょっ」
「…別に礼言われるようなこっちゃねえ」
見下ろす先、松本の胸元は。
今は不自然なまでにぎゅうと寄せられていて、さっきまでのように容易く膨らみを覗き込むような真似は出来ない。
恐らくは、俺の不躾過ぎる視線に気付いたのだろう、より一層赤く染まった頬と耳たぶと。
挙動不審にも彷徨う瞳。
――なるほど、どうやら漸く理解したらしい。
俺が『男』であることを。
とうに『ガキ』ではないことを。
そう云った目で俺に見られていたのだ、と。
どうやらやっとの如く悟ったらしい、このバカは。
(まあ、多少惜しくはあるけどな)
無防備にも晒され続けた乳房。胸の谷間。
けど、いい加減俺の寝床に潜り込もうって気も失せただろう。
眺めは良好、当然眼福ではあったし、眠る松本に夜毎ひっそり仕掛ける悪さも、なかなかに一興ではあった。
ゆえに、今更距離を置かれるのは正直痛い。
…それでも、だ。
いつまで経っても『男』として意識されないのは輪を掛けて痛い。虚しい。情けない。
(しょうがねえだろ、惚れてんだから)
好きなのだから、どうせだったら意識されたい。
敬愛でなく親愛でなく、恋慕の情を抱いて欲しい。
そう思うのは当然で。
こんな抱き枕同然の同衾なんて続けたところで、結局何ひとつとして生み出さないと知っているから、自らその手を振り切った。
甘い拷問にも似たぬるま湯のようなこの関係に、終止符を打つことを決めたのだった。
…まあ、一旦距離を置かれようとも、これから全力掛けて落とすけどな。
どうせだったら自力でもっぺん同衾まで持ち込んでやらあと、意気込みも新たに逸らした視線。
瞼に焼き付く白い乳房の残像を、消し去るように軽く頭を横に振る。
意識を切り替えるべく、溜息をひとつ大きく吐き出す。
「ほれ。ンなことよかさっさと支度しろ、テメエは。遅刻すんぞ」
「あっ、ハイ!そうでした、そおおでしたっ!」
俺の言葉にハッと我に返ったらしい松本は、ぱんと大げさに拍手を打つ。
だがいつもであれば俺の前でも平気な顔してその場で寝間着を脱ぎ捨てようとする癖に、今日に限ってやけにもじもじと躊躇っている。
俺の前で服を脱ぐのを恥らっているのは明白で。
うん、まあ…なかなかに新鮮ではあるな。








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あきゅろす。
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