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中人日乱
2


俺が刺されていないと知るや否や、ホッと安堵したように笑う。
どこまでも俺の身を一番に案じる、細やかな心遣いが酷く愛しい。愛おしい。
だが、「良かったー。虫刺されが悪化して、万が一『とびひ』にでもなったら大変ですもんね!」…って、お前ええええ!!!
そのいらん子ども扱いだけは断じて許せん。頂けねえ。
「フン。どうやら俺の代わりにお前が食われてくれたらしいな」
意趣返しの意も篭めて、ニヤリと笑って茶化してみれば、釣られたように松本が剥れる。
「わあ、ひどいたいちょー!」
すぐにもいつも通りのふたりに戻る。
こんな日常のやり取りは、最早いつものことで。居心地だって悪かあねえ。
…けど、それだけじゃあやっぱり面白かあねえな。
何も俺は『上司』としてこの女の傍らに在りたいわけではないのだ。
むしろ隙あらば…といつだって、手薬煉引いて待っているのだ。――そう、今この瞬間までも。
意識して欲しい。
意識されたい、男として。
こんな隙ばかりを見せられて、無防備にも傍に居られて、…嬉しくないわけじゃないけれど。
だからって、喜ばしいとは如何せん言い難い。
否、むしろ惨めなだけだろう。
今尚子ども扱いされている事実と、敬愛されてはいても『男』としては対象外である現実とを、突き付けられては絶望を知る。
だからこそいつもであればそこで引いてしまう、話を有耶無耶に終わらせてしまうであろうところを、敢えて一歩踏み出してみた。
これから朝飯の準備をする為だろう、ゆるく結い上げられた金色の髪。
晒された白い首筋に指を伸ばして、つと赤い痕跡をなぞってみせた。
途端、面白いぐらいにびくりと震えた白い肩。
果たしてそれは、意図せぬ箇所への意図せぬ接触…ゆえの条件反射。――なのだろうが、敢えてそうとは捉えてやらない。
(これも地道な『睡眠学習』の賜物ってか?)
俺を抱えて眠る松本の、晒された胸元、白い首筋、時にくちびるに頬に触れてくちづけて吸い上げた、その結果なのだろうかと思って歪む口元。
殊更意地の悪い捉え方をして、何とか溜飲を下げようとする。
とことん虚しいだけの独り遊びに過ぎないけれど、触れた松本の肌が酷く心地良かったから。
辛うじてそれ以上自虐の念は抱かずに済んだ。
「っな…にを?」
「んにゃ、俺の霊圧で少し冷やしてやろうかと思ってな」
何気ない風を装いながら、何食わぬ顔で肌へと触れる。
滑らかな肌を撫で上げる。
…ああ、やべえ。
ちらちらと覗く、胸の谷間が色っぽい。
指先どころかくちびるを寄せ、思う存分舐め回したい。歯を立てたい。
気を抜けば、そんな衝動に駆られそうになるのをやり過ごす。
だが、対する松本の項も赤い。
覗く耳たぶがほんのりと色を伴っている。








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