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大人日乱
1.


「ほら、あたしってすっごい美人じゃないですか」


脈絡なく話を振った松本に、俺は一瞬瞠目をして。
それから「…ああ」と、曖昧に相槌を打った。
だが、そんな俺の面白味ひとつない反応など、端から眼中にないと見える。
松本は尚も淡々と口上を紡ぐ。


すっごい美人の上にスタイルもよくって、華があって上背もある。
オマケに、生まれながらのブロンドにブルーアイズなんですよ。
そりゃあもう男にだってモテモテで、それこそより取り見取りで…ぶっちゃけレベルの低い男なんて歯牙にも掛けません。ついでに興味もありません。
そんなんだから鼻持ちならない女!なーんて、陰口叩かれたことも一度や二度の話じゃないし、だからってそんな中傷如きで傷付くような可愛げのある女でもないんです。
逆に、返り討ちにしてくれるわ!とか言って高笑っちゃうような女だから、どう考えても恋愛ドラマのヒロインって器じゃないってゆーか?
むしろ、思いっきりヒロインの敵役ってゆーか??
例えるならば、シンデレラで云うところの意地悪な姉Aってゆーか、小公女だったらセーラを苛めるお金持ちのお嬢様がお似合いってゆーか?
明らかにそっち系の役がハマる女だと思うんですよね、あたし。
ほら、やっぱりこの顔にこの美貌、このスタイルだから…と。


息継ぐ暇もなく淡々と語る松本は、だからやっぱり信じられないと、もう一度。うわ言のように口にした。
そうして伏せられた青い瞳。
透き通るような白い肌に、長い睫毛が影を落とす。
いつもはキリとした柳眉が、情けなくも今は八の字に下がりきっていて。
その顔は、実に自信なさげ…でもあった。
(つーか、この顔のどこがヒール面だって?)




さんざ語り尽くされた自慢の美貌も自信も勢いも、すっかり鳴りを潜めてポツンと俯く姿はどう見積もってもこの女の言った現世の童話や文学に出てくるヒールなヒロイン像からはほど遠い。
まあ、確かにこの女の外ヅラだけを見て称するのなら。
今の話をまるっと鵜呑みにするのなら。
およそこの女ほど、男を手玉に取って自由気ままに好き勝手振る舞い、ヒロインたる女と張り合ったのち、最後にはコテンパンに打ちのめされる『敵役』がハマる女もいねえだろう。
(まあ、それだって外見だけで判断するなら、って話だけどな)
けれど俺はこの女の心根を良く知っていて、そんなヒールに徹せるタマではないことぐらい承知している。
(あたりまえだ)
だってコイツは俺の副官で、これまでずっと…長いこと、――時に傍らで、時に後ろからいつも俺を支えてくれた、見守ってくれた、唯一無二の絶対的な信頼を置く女なのだ。
…何も上辺だけをなぞって来たワケじゃない。
今尚戸惑う女の腕を取り、軽く引き寄せれば存外容易く松本は、俺の胸へと倒れこむ。

「っ!て、ゆーか!!たいちょ、今あたしの話聞いてました?!」

みるみる内に赤く染まる頬。
更に困惑を刻む眉間の皺。
両の手のひらがそっと俺を押し返そうとするけれど、そんな抵抗など物ともせずに、更に強く抱き締める。
より一層近付いた、互いの距離と、鼓動の距離。
…ああ、見ろ。
心臓、すっげーバクバク言ってんじゃねえか。
(俺も、お前も)
これで俺のこと、「一度だって『男』として意識したことなんてないです」なんざ、抜かしてんじゃねえぞ。
てか、充分意識してんじゃねえか!
意識しまくりなんじゃねえか、俺も!お前も!!






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あきゅろす。
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